悲しみ乗り越え「紫陽花賛歌」誕生 藤沼湖・奇跡のあじさい題材

 
藤沼湖畔に立つ深谷さん。「地域みんなで悲しみを乗り越えていきたい」。足元には来春の開花を待つ奇跡のあじさいの株分けが並ぶ

 東日本大震災で農業用ダム湖の藤沼湖の堤が決壊し、大きな被害が出た須賀川市長沼地区で、悲しみを乗り越え、未来へ進もうという心情を表現した歌が誕生した。震災後に水が枯れた湖底から見つかった「奇跡のあじさい」をモチーフに、復興への祈りとともに「地域の絆」への願いが込められている。

 「紫陽花(あじさい)賛歌」と名付けた歌は藤沼湖近隣地区の復興を目指す「藤沼湖自然公園復興プロジェクト委員会」委員長の深谷武雄さん(75)が作詞。須賀川市在住で安積黎明高(郡山市)合唱団顧問の星英一さんが作曲した。

 同プロジェクト委は2012年9月に発足。深谷さんは中心メンバーとして「藤沼湖の湖底を歩く会」「奇跡のあじさい植樹祭」など多くの復興イベントに関わってきた。この中で同じ地名の縁で、長野市長沼地区の有志を招きイベントを開催。その際、過去何度も水害に見舞われた長野の一行が、地域復興を願う歌「桜づつみ」を須賀川の長沼になぞらえた替え歌にして披露。これを聴いた深谷さんは「われわれも歌も作って前を向いて進みたい」と思い立った。

 深谷さんが作詞で一番に心掛けたのは「地域の人たちの心が一つになること」。震災後、被災状況によって地域内にあつれきが生じることもあったという。「地域コミュニティーの大切さを再認識した。みんなで備え、支え合い、伝えることが大切なんだと」。そんな思いを込めた歌詞には「かなしみ越えて花は咲く」「希望の証花ひらく」と、地域の復興を祈り、未来を歌い上げる言葉が並ぶ。曲について星さんは「詞に沈痛な思いだけでなく、前向きな思いを強く感じた。言葉の情感を大切にした」と語る。星さんは今後、混声4部合唱の楽譜を作り、地元の高校生たちによる演奏を目指している。

 藤沼湖の決壊では下流域の22棟が全壊し7人が死亡、1人が行方不明になった。深谷さん自身、家族は無事だったがその4年前に結婚を間近に控えた長女を病気で亡くした。「家族を失った悲しみは他の人には分からないかもしれない。でも、亡くなった家族のためにも前を向かなくては。コロナ禍を越えたら、この歌を若者たちに歌ってほしい」。長沼の人たちは、きっと悲しみの底から力強く立ち上がる。湖の底から大空を目指し伸びていくアジサイのように。