「浪江の水道水」復興に一役 安全性PR、新たな『呼び水』に

 
製品化される水道水の原水=浪江町・小野田取水場

 水道水を復興の新たな"呼び水"に―。自然によってろ過された天然の地下水は、不純物の少ない「良質な水」とされる。地下水をくみ上げ水道水としている浪江町は12月、町が供給する水道水を500ミリリットルのペットボトルに詰めて発売する。関係者は「浪江の安全でおいしい水をPRし、原発事故による風評払拭(ふっしょく)につなげたい」と期待する。

 「浪江の水は本当に大丈夫なのか」。約1年前、避難先から帰還した町民から町に問い合わせがあった。東京電力福島第1原発事故で町全体に降り注いだ放射性物質は地下に流入していないのか―。町の取水場は小野田、谷津田、大堀、苅野の4カ所にあり、このうち、大堀と苅野は帰還困難区域内に位置している。

 町は、帰還困難区域を除き避難指示が町内で解除された2017(平成29)年春以降毎日、各取水場で放射性物質の検査を実施。全て検出限界値以下で「安全な水」であることを証明している。町は、放射性セシウムは地表の土の粒などに強く吸着する性質があり、地表近くにとどまることから、地下深くまで浸透することはないとしている。

 一方、別の帰還町民からは「浪江の水はうまい」との意見が寄せられた。その町民は避難先だった首都圏の水道水で生活したことがきっかけで、古里の水のおいしさを知ったという。町民の言葉に端を発し、町は水道水を町の財産としてPRしようと決めた。

 震災前、町内には一般用医薬品製造販売のエスエス製薬福島工場が立地し、町の地下水を使って栄養ドリンク剤「エスカップ」を製造していた。工場は震災の影響で休止しているが、町によると、工場立地の背景には「浪江のきれいな水が評価された」ことがあった。

 ペットボトルの製品版は、近くに高瀬川が流れる小野田地区で取った水を使う。パッケージは阿武隈山地から町を横断して太平洋に流れる高瀬川などがデザインされる。製造本数は2万本を計画し、1万本を道の駅なみえで販売、残りは災害対応用に町が備蓄する。町は年末に、国際的な品質評価コンテスト「モンドセレクション」に出品して金賞獲得を狙う。

 水素の製造にも活用

 浪江町の水は、飲用のほかにも意外なことに活用されている。今年3月、エスエス製薬福島工場の近くに世界最大規模の水素製造拠点「福島水素エネルギー研究フィールド」が開所した。ここで製造している水素は町の水道水を原料としている。町の水は次世代のクリーンエネルギーの研究に一役買っている。