医療従事者ら原子力災害対応「仮想訓練」 福島医大がソフト開発

 

 福島医大は、医療従事者らが対面せずに仮想空間で原子力災害対応訓練に取り組める教材用のソフトウエアを開発した。原発事故現場などを模した空間でアバター(分身)を自由に動かして必要な医療を提供する。新型コロナウイルスの感染が懸念される「3密」(密閉、密集、密接)を避けられるのが特長の一つ。東日本大震災から丸10年を前に、県内の大学生に体験してもらい原発事故の教訓を次世代につなぐ狙いだ。

 ソフトの名称は「カワウチ・レジェンズ」。震災直後から富岡消防署川内出張所に指揮本部を移して当時の警戒区域を含む管内で消防救急活動を行った双葉地方消防本部にちなんだ。原発事故のほか、爆薬で放射性物質を広範囲にまき散らして被害を与える「汚い爆弾」などを想定した仮想空間に入り、防護服や医療用資機材などの装備品を選択してアバターを操作する。

 けが人の状況を確認しながら治療の優先順位を判断する「トリアージ」を行ったり、「除染テント」などの資機材を活用して現場に安全な場所を確保する。線量計で被ばく量を確認しながら、どの程度の時間で活動を制限すべきかなど、原子力災害特有の判断力も養う。数十人が同時に参加し協力することが可能で、英語にも対応する。教員はアバターの動きを見ながら指導する。

 今後、操作性などで改良を重ねる。ソフト開発は川内村で昨年10月に、県内の学生を集めて実施する予定だった原子力災害対応実習が「3密」を避けられないとして中止になったことがきっかけ。福島医大放射線災害医療学講座が中心となり、放射線研究で実績のある長崎大が協力した。

 「アバターで面接する会社があるように仮想空間で実習ができないか」。講座スタッフの提案からアプリケーション開発会社「Mark  ―on(マークオン)」(東京都)に開発を依頼。浜通りで教育研究活動をする大学などに補助金を出している福島イノベーション・コースト構想推進機構の支援を受けて開発した。海外の学生が参加した試作タイプでの訓練も行った。

 講座の長谷川有史教授(52)は「コロナ禍の状況を乗り越えようという、さまざまな人の思いや努力によって生み出された教材。多くの人に使ってほしい」と強調する。開発の中心的役割を担った井山慶大(けいた)助教(33)は「ソフトを体験した学生に好評だった。新型コロナが収束した後の実際の訓練との使い分けを考えていきたい」と話した。