東日本大震災、原発事故から3月で「10年」 徐々に新たな交流

 
旧避難指示解除準備区域に開所した双葉町産業交流センター=双葉町

 東日本大震災、東京電力福島第1原発事故発生から3月で10年を迎える。帰還困難区域に特定復興再生拠点区域(復興拠点)を整備する各町村では、生活基盤の整備や産業再生など、住民帰還に向けてさまざまな取り組みが進む。昨年は3月にJR常磐線が9年ぶりに全線で再開し、夜ノ森(富岡町)、大野(大熊町)、双葉(双葉町)の3駅周辺の一部地区の避難指示が順次解除された。双葉町では初の解除となった。同町には、県の「東日本大震災・原子力災害伝承館」や町産業交流センターが開所し、人の動きも生まれている。

 役場仮庁舎建設へ

 【双葉】原発事故に伴い出されていた避難指示の一部が、昨年3月4日に初めて先行解除された双葉町で、2022年春を目標とするさらなる避難指示の解除と帰還開始に向け、JR双葉駅西側に居住エリアの整備が進められている。

 町は駅東側の広場に、町役場の仮設庁舎を建設する方針で、本年度中に駅前広場の地質を調査する。

 避難指示が先行解除されたのは、帰還困難区域のうち、再び人が住めるように整備する復興拠点に指定されている双葉駅周辺と海側の避難指示解除準備区域。先行解除と同時に、復興拠点約555ヘクタール全域への立ち入り制限が緩和された。

 昨秋には、避難指示が解除された中野地区に、県の記録施設「東日本大震災・原子力災害伝承館」と双葉町産業交流センターが開所し、新たな人の流れが生まれ始めている。

 22年春から準備宿泊

 【富岡】2023年春に復興拠点全域の避難指示解除を目指す富岡町は国と調整し、22年春から住民が長期滞在できる準備宿泊を始める。事実上の住民帰還が始まる見通しで帰還困難区域の再生に向けた歩みが加速する。

 復興拠点の面積は、帰還困難区域全体の約46%に当たる約390ヘクタール。昨年3月に避難指示が先行解除されたJR夜ノ森駅周辺をはじめ除染が進み、準備宿泊開始に向けた準備が整いつつある。町は復興拠点内に健康増進施設と買い物環境の整備、公園や町営住宅の復旧など新たなまちづくり計画に取り組む方針。

 一方、復興拠点外の約460ヘクタールについて環境省は4月以降、町の要望を踏まえ主要道路沿いの除染に着手する。対象範囲は数十ヘクタールで家屋約200軒が含まれる見通し。町が28年の実現を目指す帰還困難区域全域の避難指示解除の前倒しにつながる可能性も出てきた。

 下野上に産業団地

 【大熊】大熊町の復興拠点は、JR大野駅周辺を中心に約860ヘクタールで整備される。2022年春ごろまでに避難指示を解除し、解除5年後の居住人口は約2600人を目標としている。

 駅西側に産業交流施設のほか、宿泊や商業機能を持たせたまちづくりを進め、中、長期的復興を見据えた施設を整備。周辺は帰還町民や廃炉関連従業員ら向け住宅を設ける方針。

 下野上地区は「居住・営農」「産業・交流」の二つのゾーンに編成し、農業振興と産業集積を進める。町内事業者ら向けの産業団地も整備する。現在、拠点整備に向けた解体、除染工事が進められている。

 JR常磐線全線再開に合わせ昨年3月に大野駅周辺や復興拠点につながる道路の避難指示が解除された。19年4月に避難指示が解除された大川原地区に隣接する下野上、野上地区で立ち入り規制も緩和された。

 駅周辺の再開発計画

 【浪江】浪江町の復興拠点計画は、2023年春までに帰還困難区域の室原、末森(大堀)、津島の3地区で約661ヘクタールを整備する。町は帰還困難区域の避難指示解除時期を23年3月末までとし、避難指示解除から5年後の人口目標を約1500人としている。室原は家老地区を除いた区域の約349ヘクタール、大堀は末森地区の約159ヘクタール、津島は津島支所とつしま活性化センターを中心とする区域の約153ヘクタールが整備エリア。

 各地区に「居住促進」「交流」「農業再開」の各ゾーンを設ける。室原は、交通の要として「物流・産業」と「防災」のゾーンを設ける。大堀には大堀相馬焼の里の窯元や物産館「陶芸の杜おおぼり」を整備する方針。このほか、町は、JR浪江駅周辺に商業・交流機能を持つ施設や新規就業者ら向け住宅などを整備する再開発事業に乗り出す。25年度にも一部施設を開く予定。

 除染、家屋解体完了

 【葛尾】葛尾村の復興拠点は、帰還困難区域に指定されている野行地区の約95ヘクタールで計画され、帰還住民が暮らしやすい環境を整える方針。野行地区では原発事故前、約120人が生活していた。2022年春ごろまでの実現を目指す避難指示解除後、約80人の居住を見込む。

 復興拠点は「中心地区再生ゾーン」と「農業再生ゾーン」に分けて事業を展開する。昨年中に除染・家屋解体がほぼ完了し、被災した道路やインフラなどの復旧・整備が進められている。

 中心地区再生ゾーンには既設の集会所を復旧させ、地域住民の活動拠点を整備するほか、応急仮設住宅などを活用した交流施設を整備し、コミュニティーの再生や震災・原発事故の記録と記憶の伝承を図る。

 農業再生ゾーンでは、営農意向や営農方法に応じた農地の整備や水利施設の復旧・整備などを進め、農畜産業の再生を図る。

 拠点外に復興公園

 【飯舘】飯舘村唯一の帰還困難区域となっている長泥地区では、2023年春の避難指示解除を目指し、面積の約186ヘクタールを復興拠点と位置付け、再び人が住めるよう除染や家屋解体などが進められている。

 村は復興拠点外の方針について、「復興公園」を整備することで、全面的な除染は行わず、復興拠点と一括して避難指示を解除をするよう国に要望してきた。国は昨年12月、復興拠点外について、住民の帰還や居住を想定しない形での土地活用に限り、放射線量が年間20ミリシーベルトを下回れば、除染をしなくても避難指示を解除できる新たな避難指示解除要件を決めた。

 長泥地区では、農業の再生を目指し、村内の除染で出た土壌のうち、放射性セシウムの濃度が1キロ当たり5000ベクレル以下のものを再生資材化し、土地の造成や作物栽培などに利用する環境省の事業も進められている。