「ダム決壊の記憶後世に」藤沼湖慰霊碑が完成 3月11日除幕式

 
完成した慰霊碑を見つめる柏村さん(右)と森さん=26日午前、須賀川市滝

 東日本大震災による決壊で死者7人、行方不明者1人の大きな犠牲を出した須賀川市長沼地区の農業用ダム「藤沼湖」近くの公園に26日、犠牲者を追悼し、災害の記憶を後世に伝えるための慰霊碑が完成した。震災から間もなく10年。被災地の復旧が進む中、碑の建立に取り組んできた関係者は「遺族の気持ちに寄り添い、災害の教訓を後世に伝えたい」と語る。

 「この悲劇を二度と繰り返さないよう後世に語り伝える」。そう決意が刻まれた慰霊碑は、2018(平成30)年に発足した地元有志でつくる実行委員会が、震災後に整備された市滝の防災公園に建立した。

 大きさは横約9メートル、高さ約2メートル、奥行き約3メートル。藤沼湖を東に擁する「高土山(たかどやま)」をモチーフとし、碑文には当時貯水されていた約150万トンにもなる水が下流域を襲ったとする災害の説明のほか、遺族から了承が得られた犠牲者6人の名前を刻んだ。

 当時濁流にのみ込まれた被災地では住宅の建て替えが進み、ダムも復旧。震災の爪痕も少なくなりつつある。それだけに地元行政区長で、災害の教訓を後世に伝えたいと碑の完成を見守ってきた実行委員長の柏村国博さん(65)は「教訓を伝える一つの証しができた」と安堵(あんど)する。実行委員会事務局で被災者の会会長を務める森清道さん(64)は「犠牲者の供養ができる場ができ、感慨深い。これから来るであろう災害に備えるためにも、経験を残したい」と語った。

 一方で慰霊碑の碑板には、空白も残した。「気持ちの整理ができない、という遺族の気持ちを尊重した」と柏村さんは明かす。「将来、気持ちに区切りが付いた時に名前が彫れるように」と残した空白だという。森さんは「(10年を迎えても)遺族にとって節目はないと思う。少しでも私たちが寄り添えたら。記憶を後世に残す取り組みは終わりじゃない」。

 実行委員会では今後、被災者の証言などを集めた記録誌の製作にも取り組むという。慰霊碑の除幕式は震災10年の節目となる3月11日に行う予定だ。