【大熊町ルポ】少しずつ再開発動きだす 家屋解体、水道修復進む

 
首都圏方面に向かう人々を乗せたJR常磐線上り列車=大熊町下野上・JR大野駅

 「帰還困難区域の立ち入りは午後4時までとなっております。時間が過ぎると有人ゲートは閉じられます」。夕暮れ近い午後3時30分、一時帰宅する町民に向け古里からの退去を知らせる防災無線が大熊町に響いた。ここはかつて町の中心市街地だった下野上地区。震災から10年を迎えようとする今も、非日常が続く。

 下野上地区のJR大野駅周辺の約28ヘクタールは、東京電力福島第1原発事故による避難指示が昨年3月5日に先行解除された。2月末、地区を訪れた。一見すると人のぬくもりを失った空虚な建物が並んでいるように感じる。しかし、駅周辺は来春の住民帰還を目指す特定復興再生拠点区域(復興拠点)に指定されており、家屋の解体や上下水道の修復などが少しずつ進む。

 午後5時すぎ、大野駅を訪れた。普段は閑散としているが、この日は週末。数人の男性が待合室にたたずんでいた。切符を購入する男性に行き先を尋ねると、「家族がいる首都圏の自宅に一度戻ります」と答えた。男性は、福島第1原発で働く廃炉作業員だった。

 男性は単身で町内に仮住まいし、月に数回、大野駅から常磐線を利用しているという。待合室にいるほかの男性たちも同じだ。「間もなく列車がまいります」。駅構内にアナウンスが流れた後、男性たちを乗せた車両はいわき方面に走っていった。家族らが待つ場所に"一時帰宅"し、週明けに心を新たにして難しい作業に取り掛かるのだろう。

 下野上地区の復興はまだ緒に就いたばかり。町は民間企業のノウハウを取り入れながら、産業交流施設の整備などの再開発を進める考えだ。今はまだ物寂しい雰囲気が漂うが、駅を行き交う人々の姿は1年前にはなかった。少しずつだが、止まっていた時計の針が動きだしている。