大事なのは「自分の復興」 いわきの地域活動家、新著でメッセージ

 
主宰するイベントスペース「UDOK.(ウドク)」でインタビューに応じる小松さん=いわき市小名浜

 「一番大事なのは自分らしく生きること。そのついでに地域が面白くなっていけばいいのかな」。いわき市在住の地域活動家、小松理虔さん(41)は新著「地方を生きる」(ちくまプリマー新書)の中で「自分だけの復興でよい」と若者に向けてメッセージを送る。地元を拠点とする気鋭の論客は、東日本大震災から10年で何を思うのか。

◆若い人たちへ

 「福島の若者が『復興を担う』と思ってくれるのはとてもうれしいが、過剰に大きな責任を背負ってほしくない。まずは堂々と自分の人生を歩んでほしい」

 小松さんの新著は、中高生向けの新書シリーズから刊行。本の編集者からは「地方のいいところを紹介する本はたくさんあるが、小松さんには課題や葛藤をそのまま若い人たちに伝えてほしい」と依頼された。「地方の現状を包み隠さず等身大に書いている。10代の人たちに向けた『地方のぶっちゃけ話』ですね」

 テレビ記者時代や上海への移住、地元のいわき市小名浜に戻ってから起こった出来事や悪戦苦闘ぶりを率直に記し、プライベートなことも赤裸々につづる。金銭事情や風通しの悪さといったマイナス部分も〈ローカル「クソ」話〉として歯切れ良く展開する。

◆面白がる生き方

 「地方ならではの葛藤って実際に住んでみないとなかなか見えてこない。でも、そういうことを示しながらも『面白がって生きていこうよ』と伝えたかった。順風満帆な成功体験より失敗や葛藤、試行錯誤した話のほうが興味を持ってもらえる」

 全編にみなぎるのは、目の前の出来事を面白がろうとする前向きな姿勢だ。そこは上海在住の経験から〈上海のグローバルイメージではなく、上海のローカルなものこそ、だれかに深くささる〉と開眼した。

 「住んでいると当たり前になってしまうが、上海では外国人目線だったので独特な風景や文化の中で、それらの面白がり方が少しずつ分かってきた。その感覚のまま地元に戻ってきたら『小名浜だって面白いじゃないか』と気付くようになった」

◆悲劇の土地でなく

 震災10年で思うことは「一口に復興といっても住まいの件から心の問題までさまざま。うまく進んだ部分と進まなかった部分、その両方をしっかり示してもらいたい」と語る。

 「この10年の成果をはっきり問うていくことも必要ではないか。そうすれば未来の被災地や他の地域にも役立てることができる」

 もう一つの期待は「福島から生まれる新しい価値観」だ。「力強く復興する姿を伝えることも大切だが、一方で弱さも抱えたままという現実がある。例えば人口が戻らず、高齢化が進んでいるのは、他地域の課題を先取りしている」

 それでもなお豊かな生活が送れるようになり、衰退のスピードを緩やかにするにはどうすればいいのか。そこを福島から示していければ「素晴らしいこと」と小松さんは語る。「福島が"悲劇の土地"としてしか語られないのは、もうそろそろ終わりでいいかなと思います」

 こまつ・りけん 1979年いわき市小名浜生まれ。磐城高、法政大卒。福島テレビ報道部記者を経て上海に移住し、日本語情報誌の編集ライターとして活動。帰国後は地元で地域づくりに取り組む。2018年、初の単著「新復興論」(ゲンロン)で第18回大仏次郎論壇賞を受賞。新たな書き下ろし部分を加えた同書の増補版が11日に発売になる。