【富岡町ルポ】更地広がる夜の森 「戻りたいけど今の生活も...」

 
建物の解体が進む夜の森地区=9日午前

 バリケード越しに街並みを眺めると、家屋や商店が次々と取り壊され、更地が広がっていた。東京電力福島第1原発事故に伴い設定された富岡町の帰還困難区域のうち、夜の森地区の一部で避難指示が先行解除されてから10日で丸1年。かつての閑静な住宅街の姿は消えつつある。

 穏やかな日差しの9日午前、先行解除された地域を歩いた。JR夜ノ森駅と周辺の町道など約1.1キロが解除範囲で、特定復興再生拠点区域(復興拠点)に含まれる。道路沿いにほぼ隙間なくバリケードが設置され、今も宅地への立ち入りは制限されている。警備員以外に人影はほとんどなく、あちこちで重機が慌ただしく動いていた。

 環境省によると、復興拠点内の住民からの家屋など建物の解体申請は775件あり、このうち約8割の解体が完了した。「もうすぐ自宅を兼ねた店の解体が始まる。避難指示が解除されても帰る家がない」。駅の近くで食料品店を営んでいた中田寛さん(65)は、電話越しに寂しげにつぶやいた。郡山市で長く避難生活を送ってきた。「戻りたいけれど、ようやく落ち着いた今の生活を手放せるだろうか。家を再び建てる資金も必要になるし、迷ってしまう」と声を絞り出した。

 町は2023年春の復興拠点全域の避難指示解除を目指している。つぼみが膨らみ始めた駅前の桜並木沿いでは、ランドマーク的存在として親しまれた温泉宿泊施設「リフレ富岡」の解体作業が大詰めを迎えていた。町は跡地に温泉を備えた新しい健康増進施設を造り、にぎわい創出の拠点とする計画を練る。

 まちづくり関係者からは移住者向け住宅の整備を求める声も上がる。暮らしの痕跡が失われた地域に再生の絵姿を描こうと町は歩みを重ねていく。