【内堀知事・震災10年インタビュー】 研究拠点軸に「一元化」

 
国際教育研究拠点を主軸とした各施設の活用など今後の復興政策について話す内堀知事

 内堀雅雄知事は10日、本県のさらなる復興加速化に向け、政府が浜通りに新設する国際教育研究拠点を主軸とし、東日本大震災後に整備された福島ロボットテストフィールドや東日本大震災・原子力災害伝承館などを一元的に運用する考えを示した。各施設の持つ特長を最大限に引き出し、人材育成や交流人口の拡大に結び付ける。

 震災と東京電力福島第1原発事故から丸10年となるのを前に、福島民友新聞社のインタビューに答えた。聞き手・編集局長 小野広司

 内堀知事は、これまでに整備した施設群は復興に重要な役割を果たしているが、それぞれが単独で動いており「面的に広がっていないのが改善点だ」と指摘。その上で「教育研究拠点のもとで一元的に、全体の面的な対応ができるようにすることは可能だ」と述べ、各施設の運営主体と協議に入る意向を示した。

 連携の効果として「(浜通りを)教育旅行の聖地にしたい。交流人口の活性化に向け、教育拠点の果たす役割は大事だ」と期待感を示した。ただ、県が国に提案する教育研究拠点の立地場所については「国から骨格が示されておらず、決まっていない。国には早期に示すようお願いしている」と述べた。

 「コロナ後、教育旅行の聖地に」

 ―震災、原発事故から10年を迎えた。本県の復興の進捗(しんちょく)度を登山に例えると。
 「前例のない多くの課題と、復興のステージが進むにつれて顕在化する新しい課題を抱え、登るべき山が現在進行形で大きく、高くなっている。本県の復興は間違いなく一歩ずつ着実に前進している。眺めることができる景色が変わってきた、より高みに登ってきているなという実感はある。ただ、道のりは長くて険しい。東日本台風や新型コロナウイルス感染症、福島県沖地震で、また山が高くなった。この幾重もの災害や困難を乗り越え、復興の頂点にたどり着いたときに、世界に誇れる福島の姿をきっと一望できると思う」

 ―福島ロボットテストフィールドや東日本大震災・原子力災害伝承館など産業振興や伝承のための多くの拠点ができた。活用がまだ不十分ではないか。
 「県環境創造センターやふくしま医療機器開発支援センターなども含め、それぞれが重要な役割を持った拠点だ。ただ、それらが面的に広がっていないのが今後の改善点。そのためのキーワードになるのが『国際教育研究拠点』だ。国の法人として立ち上げるが、県は全面的に関わっている。福島の復興に関わる拠点は全て、教育研究拠点のもとで一元的、面的に対応していくことが可能になると思っている。また新型コロナが落ち着いた後は、教育旅行や企業の研修旅行などが浜通りの交流人口の活性化の起爆剤になる。教育旅行の聖地になることも一つの復興の姿で、その点でも教育研究拠点が果たす役割は大事だ。国には早期に骨格を示してもらい、県としてより良いものを練っていきたい」

 ―第1、第2原発の廃炉完了を実現させるため、東電への関わり方を強めていく考えはないか。
 「主体は国と東京電力であり、両者には責任を持って、しっかり最後まで廃炉対策を完遂していただきたい。大切なことはたった一つ、安全最優先。廃炉対策が安全に、着実に進まなければ、福島全体の復興が前に進まなくなる。復興の大前提は安全最優先の廃炉対策だということを国と東電に対し訴えていく。細かなトラブルや情報の出し方については、やはり反省すべき点があり、県としても改善するよう申し入れている」

 ―第1原発で発生する放射性物質トリチウムを含む処理水の処分方法の決定が先送りされている。知事自身の考えは。
 「海洋放出反対やタンク保管の継続、風評への懸念など、多くの意見がある。一方で避難自治体、特に立地自治体は、タンク保管を継続することによって自治体の復興自体が前に進まない。この状況が長く続けば、故郷に帰ろうという思いをなえさせてしまう。県として正確な情報発信と風評対策を政府に対し強く求めている。政府として責任を持って、慎重に対応方針を検討してほしい」

 ―今後の復興を進める上でリーダーに必要なことは。
 「基本的な部分で三つある。『聞く力』『伝える力』『挑む力』だ。県民の悩み、夢や希望を聞き、自分自身の根幹にある思い、県民の思いをどう伝えるか。そして復興に向けたこれからの長い闘いの中、われわれ自身が当事者として努力し、挑戦していかなければ支援の輪は広がらない。できるだけ多くの方の共感をいただき、それが長続きするよう発信していく」