【作家・乙武洋匡氏インタビュー】 自分で考え学び合う 知識偏重でない新たな授業の形

 
「真の学びにつながる授業を目指す」と話す乙武氏

 広野町に来春開校する中高一貫校・ふたば未来学園高を支援する「ふたばの教育復興応援団」メンバーで作家の乙武洋匡(ひろただ)氏は14日までに、福島民友新聞社のインタビューに応じ、同校での教育について「暗記中心の知識偏重ではなく、知識を材料として『自分はどう考えるのか』という真の学びにつなげる授業を目指す」と抱負を語った。

 乙武氏は東京都教育委員を務めており、3年間の小学校教諭の経験も踏まえて「知識を学ぶだけではいけない」と現在の学校教育の課題を指摘。「ふたば未来学園高では、学んだことをどう考えるか、人はどう考えているか、それをどう突き合わせていくかまでできたらいい」と、新たな授業の形作りに意欲をみせた。

 また、中高一貫校について「(原発事故による)大きなマイナスを埋めるための取り組みではない。他と違う大きなプラスにしたい」とし、「エリート養成校なら東京で十分。さまざまな問題について答えが出ていない双葉の地で、地元の子と首都圏の子らがともに学び合い、課題を考えることに意義がある。その土地自体が学びの場であることが宝になる」と語った。

 乙武氏は自身の子ども時代に両親がチャレンジ精神を育んでくれたことなどを紹介しながら、本県の学校教育関係者や保護者に対し「(同校は)日本の未来を見据えたトップクラスの人々の知恵を集めた新しい教育の場になる。通常の公教育と比べてみて批判するのではなく、信じて応援してほしい」と幅広い支援を呼び掛けた。

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  【乙武洋匡氏インタビュー 聞き手:菅野篤編集局長】

 作家の乙武洋匡氏は福島民友新聞社のインタビューで「『震災という境遇の中に育った自分たちは、どうせここまでなんだ』と線を引くのは楽だが、そうではない。自分の可能性を決めるのは自分」と、本県の子どもたちにエールを送った。

 ―東日本大震災から3年半が経過した。原発事故と放射能汚染、風評など災害が連鎖した本県の現状をどうみているか。
 「津波被害と原発事故による被害は異なる。津波被害は壊れたものを戻すことでは答えが見えているが、原発事故の被害は努力の方向性さえ見いだせない。避難が解除されたら戻るのか、コミュニティーを存続させるべきなのかなど、さまざまなことに答えが出ていないところに苦しさを抱えていると感じている」

 ―被災地に開設される中高一貫校・ふたば未来学園高のためにできた「ふたばの教育復興応援団」のメンバーになった理由は。
 「被災地を何度も訪れ、子どもたちのことが気になっていた。私は両手両足がない状態で生まれてきて、一般的には不幸な境遇とみられる。しかし、両親の育て方や周囲の支えで今の自分があり、手足がなく生まれて良かったと思っている。強がりではない。被災地の彼らにも同じことが言えるのではないか。できることなら震災前に時計の針を戻したいが、誰もそんなことはできない。子どもたちが大人になった時に『震災があったけれども人のつながりを知り、この幸せがある』と振り返ることができるようにするのが、今の大人の責務だと思っていた。小泉進次郎復興政務官から(応援団の)話をいただき、思いが重なったと感じた」

 ―現場の教壇に立ったこともある教育者の乙武さんとして、中高一貫校にかける意気込みは。
 「小学校で教員を3年間務め、今は東京都の教育委員。教育の現場と行政の両方を経験し、改善するところはたくさんあるが、なかなかできない土壌があると感じた。日本の教育は全国一律の教育が金科玉条で、どこか1校だけを変えることは難しい。だが、今回の双葉の取り組みはチャレンジができる。既存のシステムにとらわれない教育内容を集めたい。小泉さんも『前例なき環境には前例なき教育を』と言っている」

 ―学園では、これまでのさまざまな経験に基づいて具体的にどう関わっていくのか、注目されている。
 「教育には何でも詰め込まれ、社会の変化に合わせ英語教育、環境教育、キャリア教育、IT教育などが必要になった。だが、人員や予算が確保されたかというと、そうではなく、コップの水があふれているのが今の教育現場。中高一貫校は大きな期待を背負っており、いろいろなことを盛り込もうとするのは無理もない。しかし、求められるメニューが現場にとって適正かどうかは、きちんと判断すべきだ。ゆとり教育も結果は失敗だったが、目指した方向性は間違っていなかった。実現するには現場にゆとりが必要だったということを踏まえなければいけない。現場を知る人間としてチェックしていきたい」

 ―乙武さん自身は、ご両親からどのような教育を受けてきたか。
 「両親ともに私が生まれた時から『この子は一生寝たきりかもしれない』というところからスタートしたので、私が何をしてもプラスにとらえてくれた。寝返りを打った、一人でご飯を食べた、全てプラスに見てくれたから、私は自分が大切にされているという自己肯定感をしっかりと育むことができた。また、過保護ではなく、私のやることを見守ってくれることもありがたかった。できないようなこともチャレンジさせてくれたので、自分自身に制限を設けることなく、やりたいならやってみる、できないなら他の方法、それでもだめなら助けを求めるなど、何とかしてゴールを目指す姿勢を貫くことができた。中高一貫校の子どもたちも応援団17人に食らいつき、興味のある分野を貪欲に学んでほしい」

 ―原発廃炉の見通しが立たないこともあり、子育て中の世代が県内に戻りにくい現状がある。どのような取り組みが必要か。
 「まずは選択肢を用意すること。われわれ応援団も戻ってきなさいとか、そうすべきでないとか意思決定に関わることはおかしい。戻ってきたいと思った時により良い環境を提供できるか、そこまでしかできない。また、正しい情報を隠さずにきちんと出していくことが前提条件になる。たとえ不利な情報でも『ここは確かにおっしゃる通りだが、ここに関してはこういう状況だ』と、とにかく情報を出し続けていくこと。少しでも良く見せようと思い数字をいじることがあれば、この情報社会ではすぐに(不正が)漏れる。科学的に正しい情報を取得し、それを伝えていくことがスタートなのかと思う」

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 おとたけ・ひろただ 東京都出身。早稲田大政治経済学部卒。自身の経験をつづったベストセラー「五体不満足」をはじめ執筆活動で活躍。東京都杉並区の小学校教諭を3年間務めた。都教育委員。38歳。