【新春座談会(3)】 「ふくしま創生」推進 魅力と活力、次世代へ

 

 ●運動不足の解消策  
 五阿弥
 本県の子どもたちの運動能力が震災前と比べて落ちている一方、肥満度が高くなっている。外遊びが減ったことが背景にあるのではないか。大半は外遊びをしても何の問題もないが、お母さん方が心配する気持ちも分かる。どうすれば改善できるか。
 小泉 発想の転換が必要。外遊びをしないことによるリスクを許容できない人はいる。そういう人にリスクをいくら説いても響かない。ならば、福島県は室内競技最強県だと。そういった強化を進めてもいいのではないか。
 潮田 体育館の開放などが進めばいい。バドミントンも好きにできるし、卓球などもできる。道具も貸してくれる機会が増えれば、「家にこもるより体育館に行って遊ぼうか」となる。
 小泉 外に出るきっかけをつくるのも必要。東京五輪は聖火リレーで福島県を走る予定だが、一つの動機付けになるのではないか。聖火リレーは、地域の有名なスポーツ功労者らが代表して行うのが典型的だが、できる限り多くの子どもたちが参加できる形にしてはどうか。「あの聖火、持ちたいよね。2020年目指して頑張ろう」と。
 内堀 運動能力や競技力向上に向け、東京五輪・パラリンピックは具体的な目標になる。本県出身、ゆかりの選手が、あの場でダイレクトに活躍してほしい。県は今「夢アスリート育成支援事業」に取り組んでいる。青少年を対象に競技種目を絞って、能力を伸ばす事業を本年度から始めており、継続的に取り組む。福島の子どもたちが2020年に大活躍している姿を見れば、県民は感激する。また、サポーターとして応援するという意味で、聖火リレーもそうだが、本県にさまざまな五輪関係の事業を誘致したい。可能であれば、一部の競技も誘致することで多くの人が東京五輪は復興五輪で「福島も直接関わるんだ」という意識を持ってもらえる。その時までに、できるだけ復興を前に進めようという思いにもなる。
 潮田 ただ、東京五輪はゴールではない。さらにその先に夢を持つ子どもたちもいるだろう。東京五輪を実際に見てもらうことも大事。五輪は特別な場所で、選手たちが人生を懸けて戦っている。そこでドラマも生まれ、みんなが一生懸命やるから感動もある。東京五輪を目標に、その先の夢につながっていけばいい。

 ●地方が輝くために 
 五阿弥
 人口減少社会の中でどうやって地方が輝いていくか。これから地方創生を考える際のアドバイスがあれば。
 小泉 人口が増える、高度経済成長する。こういったものが当たり前だった時代の発想を転換すべき。人口は減るという前提で、それでも魅力と活力を次の世代に引き渡していくため、新たな国家へのモデルチェンジをしなければならない。福島県も人口を増やそうという発想だけで施策を進めると、日本全体が1億2000万人から50年後に2000万人減るのに相当きつい。福島の場合、原発事故を経験したことで、知事や自民党も含めて県内全基廃炉を貫いている。私は全力で後押ししたい。かつて原発に依存した県が全く依存しなくなった社会で、人口も減少しているのに新たな産業を生み出し、魅力と活力を次世代に引き渡すことができたという県になれば、全国の原発立地自治体にとっても新たな選択肢となる。福島が地方創生のモデル県になれる。
 内堀 人口減少、地方創生は今年の一番大切なテーマ。例えば、昭和村は織姫さんを募集している。「からむし織」という伝統的な織物を織る人を募集すると、震災後も多くの方が来てくれて、4、5人が選ばれ、一定の期間、技術を学び、定住してくれる織姫さんもいる。地方には豊かな生活があるということをいろいろな層の方が気付いてくれている。
 五阿弥 その土地の歴史や文化をどのように活用していくかも重要。その点で福島は歴史がある。例えば、徳一(とくいつ)という人がいた。平安時代に奈良から会津に布教に来た高僧で、空海、最澄と仏教史上有名な論争をした。空海からは徳一菩薩(ぼさつ)と名付けられ、最澄から批判されるが、最澄は論争で寿命を縮めたといわれる。「仏都会津」という言葉があるが、平安時代から脈々とある文化の上に会津藩の精神性の高い文化ができたのではないか。歴史をしっかり学ぶことは大切だ。観光や教育に使える資源となる。地方創生を考える場合のヒントにもなりそうだ。
 潮田 福岡県出身で、北九州のはずれの小さな町で生まれ育った。外から魅力は分かりにくく、住んでみて良かったということもあるが、気付かないこともある。
 小泉 住んでいる人には分からない魅力がある。外から見たら素晴らしいのに地元の人は何とも思っていないことがよくある。福島も自分たちで自分たちの魅力を発信するとともに、僕や潮田さんのように外からは「これって福島の皆さん、素晴らしいよ」「僕らの地元にはないよ」と、もっと声を大にして言わなきゃいけない。
 内堀 昨年、八つぐらいの大学の学生が、自分たちで担当の集落を決め、そこのおじさんやおばさんと地域の魅力を探った。若者はもともと、パワーにあふれているが、触発された地元のおじさん、おばさんもぴかぴかに輝いた。外の若者と地元の力が重なり、自分たちを肯定する力につながった。

 ●子どもたちにエール 
 五阿弥
 最後に、福島の子どもたちにエールを。
 潮田 「夢を持って頑張ろう」と言うのは簡単で、私も今まで夢を持つことの大切さを訴えてきたけど、「夢って何」「目標って何」ということもある。頑張れば、夢がかなうのかというとそうでないことも現実としてある。私は五輪のメダリストではないので夢はかなわなかった。努力し続ければ、夢はかなうと言えない自分がいる。でも自分がやってきたこと、歩んできた道は大事。一番大切なのは、諦めず努力し続けること。その先の夢がかなうかもしれないし、かなわないかもしれないけど、その過程が大事。結果は、その後に付いてくる。失敗を恐れず、頑張ってほしい。
 小泉 努力は成功を保証しないが、努力をしなければ、成功する可能性すらない。子どもたちは苦しいときには「苦しい」と言っていいし、泣きたいときは泣いていい。喜びや将来への希望は「あるのか」「ないのか」ではなく、常に見つけ出すんだ。明治維新で日本を変えなければ、と思った志士たちは、一筋の光を常に追い続け、絶望や苦しみの中で一筋の光を探し続けた。それが司馬遼太郎さんが言った「坂の上の雲」なんだ。これから日本に課題はたくさんあるし、福島県は他の県が負うことのなかった課題がある。その課題を解決していく、そこに一筋の光を見いだしていけるような子どもたちになってほしい。今までのように大人が描いた将来像を子どもたちに見せるのではなく、子どもたちがこういう将来にしたいというものに対し、今を生きる大人たちが汗をかく。その取り組みがこれからの日本、福島に大切なことだ。子どもに着目した国造り、県造りが必要だ。
 内堀 子どもたちに送りたいエールであり、将来像として大事なのは笑顔。笑顔であるために「ありがとう」と感謝の言葉を今年1年、何回言うか。きょう1日の中で何回、「ありがとう」と言うか。自分の両親、先生に何回、言えるか。「ありがとう」という言葉を伝えるときは、たいがい笑顔になる。自分自身が思っていた感謝を言葉にしてほしい。私自身も心掛けるが、ぜひ「ありがとう」の数を増やそう。子どもが笑顔になれば、大人も元気になる。笑顔が広がる1年にしたい。
 五阿弥 「悲観主義は気分によるもの、楽観主義は意志によるもの」との言葉がある。今年は大人がもっと夢を語れる年にしたい。
 内堀 照れくさがらずにね。
 五阿弥 本日はどうもありがとうございました。

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 うちぼり・まさお 長野県出身。東大経済学部卒。1986(昭和61)年自治省(現総務省)に入省、2001年4月に本県出向。企画調整部長などを経て06年12月から副知事、昨年10月の知事選で初当選。50歳。


 こいずみ・しんじろう 神奈川県出身。関東学院大経済学部卒、米コロンビア大大学院政治学部修士号取得。衆院議員秘書を経て、2009年に衆院初当選、3期。13年9月から内閣府・復興大臣政務官。33歳。


 しおた・れいこ 福岡県出身。元バドミントン日本代表選手。北京、ロンドン五輪に連続出場。現役引退後は、さまざまなメディアで活躍するほか、日本バドミントン協会の普及部員も務める。31歳。