【クリエイティブディレクター・佐々木宏氏】 "才能開花"手助けしたい 前例とらわれぬCMを世に出す

 

 クリエイティブディレクターの佐々木宏氏は15日までに、4月に広野町に開校する中高一貫校・ふたば未来学園高を支援する「ふたばの教育復興応援団」のメンバーとして取材に答えた。同校の校章をデザインするなど、精力的に同校支援に力を注ぐ思いについて「福島に元気を取り戻したい。(未来学園の)生徒たちの才能を開花させるきっかけを手助けしたい」と語った。

 佐々木氏は、サントリー「缶コーヒーBOSSシリーズ」やソフトバンク「白戸家シリーズ」、トヨタ自動車「ReBORN(リボーン)」キャンペーンを手掛けるなど、前例にとらわれない話題の広告作品を多数、世に送り続けてきた。応援団として期待するふたば未来学園高の将来像についても自身の経験に触れながら「前例のない災害が起きたが、前例にないスポーツ選手やロボット博士がふたば未来学園高から誕生したと将来言われるようになるため、思い切った取り組みが必要」と話し、「中途半端にならないようハッパを掛ける役割を果たしたい」と意気込みを語った。

 佐々木氏は、トヨタ自動車の燃料電池自動車「MIRAI(ミライ)」が登場するCM「ReBORN」大河シリーズ「虎ノ門編」で、ビートたけしさんに「そういや福島にも未来って名前の学校ができるらしいよな」と語らせている。この場面について「学校の名前が『未来』と決まったと聞いた時に、自分の中で『MIRAI』と『未来』がつながった。本当に運命的だった」と明かした。

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 【佐々木宏氏インタビュー 聞き手:菅野篤編集局長】

 クリエイティブディレクターの佐々木宏氏は福島民友新聞社のインタビューで、ふたば未来学園高で実践すべき教育について「ロボットやビッグデータによる未来予測社会など高校生が関心を持つことを教育の中に取り入れた方が面白いことができるのでは。(自分自身も)夢を持ちながら講師として授業をしたい」と思いを語った。

 ―記憶に残る広告作品を立て続けに生み出してきた。秘訣(ひけつ)は。
 「大卒で(大手広告代理店の)電通に入社し、新聞雑誌局に配属となった。28歳でクリエイティブ局に移り、コピーライターとして働いた。回り道をしたことが良かったと思う。30代半ばでテレビCMに関わった。一番ついていたのがサントリー『リザーブ友の会』のCMを任されたこと。新しいテレビ番組を作る意識だった。本木雅弘さんと仲間たちがウイスキーを楽しむストーリー物。ドラマ『ふぞろいの林檎たち』がはやった時で、若者が集うCMをシリーズ化した。サントリー『缶コーヒーBOSS』のCMはもうすぐ22年。最初は矢沢永吉さん、今は宇宙人ジョーンズのシリーズ。白戸家の犬のお父さんももうすぐ10年。一つの会社、一つの商品の長いシリーズ化を考える癖がある。長く続ける方が瞬間的な大ヒットより大事だと」

 ―佐々木さんという人間を育んだものは何か。中学、高校時代はどんな子どもだったのか。
 「僕はあまのじゃくだ。原因は中学2年の時にさかのぼる。父親の仕事の関係で転校を重ねたが、北海道から東京に出てきた時に父親が亡くなった。家に帰ると母親が泣いていて、父親の死を伝えられた。勇気がなくて、すぐに父親の顔を見ることができず、一度自分の部屋で深呼吸した。鏡に映る顔は白かったが、ニコッと笑顔をつくった。家の中で男は自分一人になり、しっかりしなければ、母親を支えなければと思い、それから一切人前で泣かなかった。逆境もつらいこともあったが、そのたびにこれはチャンスかもしれないと思うようにした。『きっと、何かいいことが起きる前触れだ』と」

 ―トヨタ自動車の「ReBORN」は震災、原発事故後にビートたけしさんや木村拓哉さんが東北の被災地をドライブする内容で大きな反響を呼んだ。制作した経緯は。
 「3・11の後にサントリー『歌のリレー』という坂本九さんの歌を歌いつなぐCMを作った。そのCMをトヨタ自動車の豊田章男社長が見ていて、われわれも何か考えたいという話をいただいた。『ReBORN』とは英語で復興や復旧という意味だが、名古屋に行く車中で浮かんだ。『FUN TO DRIVE』はトヨタが長年CMで使っていた言葉で、阪神・淡路大震災で復興のキーワードだった『AGAIN』を加えた。もう一回ドライブしようと。これだけ大きな災害が起き、日本中の誰もが知る車好きのビートたけしさんと木村拓哉さんが被災地・東北をドライブする。車が行くということは道が復旧した証拠。2人が乗った車が東京から東北に向かうことにした」

 ―ふたば未来学園高についてビートたけしさんがつぶやく「ReBORN」のCMも話題になっている。
 「『ReBORN』は、被災地に寄り添いたいというトヨタの思いだった。世間では東北の復興はまだなのに東京五輪が決まり、何か浮かれていて、震災、原発事故が風化してしまうのではないかという懸念の声が出ていた。自分の中ではたけしさんと木村さんのドライブは続いているという意識。東北をドライブしてきた2人の舞台が東京に変わっても、福島の復興を象徴する学校、ふたば未来学園高の話を車内でするのは自然なことと思った。トヨタからも『ぜひ入れてほしい』と言われ、本当にうれしかった」

 ―ふたば未来学園高では、どのような授業を考えているのか。生徒たちに何を伝えたいか。
 「広告を教えたい。テレビ、新聞など媒体を決めずに福島県のコマーシャルを創らせたい。『福島の食べ物がおいしい』『頑張ろう福島』などの県広報とは全く違ったコマーシャルの制作を生徒に提案する。原発事故という大変不幸なことがあったが、誤解を恐れずに言うと、福島という地名は世界中で有名になった。福島というブランドは、ものすごくプラスのイメージがあることも伝えたい。例えば、東京五輪の開会式で首相が5分の時間を与えてくれたら、みんなは何をするかと課題を与える。世界にどんなアピールをするのか。興味は尽きない」

 ―最後に、ふたば未来学園高の生徒をはじめ、夢に向かって頑張っている子どもたちへメッセージを。
 「明るくなる性格や困難をバネにする才能を身に付けた方が得だ。映画『インディ・ジョーンズ』で主演のハリソン・フォードは次々にとんでもない目に遭い、泣きっ面に蜂のような状況が続くが、最後はハッピーエンド。つらいことが続いても絶対に息を吹き返すぞという気持ちでいつもいることが、どんな仕事に就いても大切だ。自分もクライアント(広告主)からすぐに了解をもらったCMは意外と評価が低く、逆にいろいろ反対にあったり、傷だらけになってようやく完成したCMの方が、結果的にいい物に仕上がることがある。つらいことがあると多少覚悟して、それを楽しめるタフさを持ってほしい」

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 ささき・ひろし 熊本県八代市出身。慶大法学部卒。1977年に電通に入社、クリエイティブディレクターとして活躍。2003年に広告会社「シンガタ」を設立。トヨタ自動車「ドラえもんの実写版シリーズ」など話題の広告を多数手掛ける。60歳。