「その声は、長い旅をした」 時空超えつながる「声」

 
国土社 1540円

 教会の少年合唱団(がっしょうだん)で歌う開(かい)は13歳(さい)。美しいボーイソプラノだが、もうすぐ声変わりすることに不安な日々を送っている。定期演奏会(えんそうかい)にソロで歌うことを願っていたが、長崎(ながさき)から越(こ)してきた強力なライバル翔平(しょうへい)が現(あらわ)れる。

 ある日、キリシタン伝説がある「刑場(けいじょう)の森の礼拝堂(れいはいどう)」で2人は偶然(ぐうぜん)会い、不思議な体験をする。翔平が歌うと、目に見えないもう一人の声が重なるのだ。その声はどこか懐(なつ)かしく、まるで翔平の体の底から響(ひび)いてくるようだった。その後、謎(なぞ)を残したまま、森は火事で焼けてしまう。

 一方、438年前の天正10年。長崎を出港した「天正遣欧(けんおう)少年使節」に美声の少年コタロウが下働きとして乗船していた。ローマ教皇(きょうこう)に「うたの捧(ささ)げ物」をするはずだったのだが...。

 その美しい声は海を渡(わた)り、何百年も人々の信仰(しんこう)を守るため受け継(つ)がれてきた。天正時代の少年と現代(げんだい)の少年たちの時空を超(こ)えた「声」でつながる心温(あたた)まる物語。高学年から。