「パンに書かれた言葉」 戦争の記憶、平和へつなぐ

 
小学館 1540円

 日本人の父とイタリア人の母をもつエリーの正式な名前は、光(ひかり)・S・エレオノーラ。イタリア語でエレオノーラは光。Sは?

 2011年の震災(しんさい)後、中2の春休み、エリーは一人で母の古里北イタリアの祖母(そぼ)のところに向かう。親戚(しんせき)や近所の人たちは温かく迎(むか)えてくれた。家の祭壇(さいだん)で、表面にくすんだ茶色の文字が書かれたカチンカチンのパンを見つけた。すると、祖母は少しずつ語り始めた。

 第2次大戦、ドイツ兵に連れていかれ、戻(もど)らなかったユダヤ人の幼(おさな)なじみのサラのこと。兄パオロは抵抗(ていこう)運動にかかわり、ユダヤ人を助けていたが捕(つか)まり、母がパンを差し入れた翌日(よくじつ)に処刑(しょけい)されてしまったこと。そして、返してもらったパンには血で書かれた言葉が...。

 帰国したエリーは父の古里広島について何も知らないことに気づく。祖父母に原爆(げんばく)の話を聞き、"S"に込(こ)められた意味を知るのだった。イタリアと広島をつなぐ記憶(きおく)と希望の物語。今だからこそ大人にも読んでほしい一冊(いっさつ)。

 ※福島子どもの本をひろめる会が推薦する本を紹介しています