衆院選に向けて各政党が示したマニフェスト(政権公約)には、農業政策の項目に「食料自給率の向上」の文字が並ぶ。自民党、公明党、共産党は「自給率50%」、民主党は「主要穀物等の完全自給」、社民党は「自給率60%」と具体的な目標を示す。安達太良山のすそ野に広がる大玉村大山地区で農業生産法人「農作業互助会」を経営する鈴木博之さん(59)は「食料自給率を考えてコメ作りをする農家はいない」と語る。
担い手確保や耕作放棄地の解消など、本県の農業が直面する課題は数多い。基幹的農業従事者の7割以上が60歳以上で、本県農業の根幹である水稲農家の高齢化は顕著だ。鈴木さんはこうした現状を「水稲農家の多くは、毎年のコメの出来具合や価格を気にしながら、自分のところが生活できればいいと思ってコメ作りをしている」とみている。
担い手不足は特に深刻で、県稲作経営者会議会長も務める鈴木さんが「大企業でも新入社員が入社しなければ会社はどうなるか」と危ぐする農業の現状の中で近年、自由競争や競争原理の流れが進む。
自民党と民主党はともにマニフェストで「自由貿易協定(FTA)の推進」を盛り込んだ。協定が締結された場合、関税撤廃の影響を受け、県内のJA関係者は、国内のコメや乳製品などは輸入農産物に圧倒される可能性を指摘、「自由貿易協定の推進の流れは正直、不安だ」と語る。国際競争力の強い産業・企業の海外進出には有効な自由貿易協定の締結だが、国際競争力の乏しい日本の農業への影響を不安視する県内の農業関係者は多い。
各党ともに、農家の所得増大や所得補償など小規模農家を中心とした農家支援の姿勢もアピールする。「農家の経営を支え所得最大化を実現する」(自民)、「戸別所得補償制度で農山漁村を再生する」(民主)など、農家にとって最大の懸案である所得確保に向けた公約が並ぶ。鈴木さんは「産業としての農業を守るのも国の役割」と話す。農業政策の着実な実践を求める。
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