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農家経営安定に賛否
制度実効性疑問の声も
「全国一律に農家の所得を補償するという政策を聞いたときは正直期待したが、期待ほどではなかった」。水稲と大豆を栽培する郡山市日和田町の特定農業法人アグリサービスあさか野代表の熊坂良治さん(60)は、ため息をもらす。
農家の戸別所得補償制度は昨夏の衆院選で民主党が掲げたマニフェスト(政権公約)の目玉。政権交代により鳩山内閣が本年度、モデル的に導入した制度は、減反を達成した米農家に全国一律で10アール当たり1万5000円を支給する米戸別所得補償モデル事業と、米から転作した作物に対し一定額を交付する水田利活用自給力向上事業が2本柱だ。
米の転作を促す交付金制度は前政権でもあったが、水田利活用自給力向上事業では大豆などへの交付額が減額された。熊坂さんは「大豆栽培は生産性も収益性も低く、これまでも利益がほとんどなかった」と厳しい経営状況を明かす。「自給力向上というが、農家の実態と逆行している」と語気を強める熊坂さんだが、既に大豆用の農機具などを購入しており、撤退もできない状況だ。
同市片平町のうねめ農場社長の伊東敏浩さん(35)は「棚からぼた餅(もち)」と新制度の導入を歓迎する一人。米の戸別所得補償は農家がそれぞれの経営判断で加入を決める。伊東さんは「所得補償を得て水稲の経営力を強め、大豆は少量でも付加価値が高い納豆用の大豆に変えて対応する」と話す。
一方、JA郡山市水稲部会副部会長の影山和雄さん(54)は「私の住む地区では集落100戸のうち、減反しているのはうちも含め3戸程度。所得補償に手を挙げる人も少ない。県内どこも同じ状況だと思う」と指摘。「農政の大転換」という新制度の実効性そのものに疑問を投げ掛ける。
戸別所得補償制度は4月から加入申請が始まり、6月末まで福島農政事務所で受け付けているが、生産農家とJAとの販売契約が進んでおらず申請は低調。同事務所は申し込みのピークを5月中旬とみているが、米の過剰作付けが全国最大規模の本県で制度への理解が進むのか、関係者は気をもむ。
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