【清流あらかわフォーカス<2>】心安らぐ自然のミスト

 
荒川地蔵原堰堤地蔵原堰堤の広々とした景観と流れ落ちる豊かな水は、驚きとともに心の安らぎを与えてくれる(石井裕貴撮影)

 「福島市にこんな場所があったのか」。地蔵原堰堤(えんてい)を初めて訪れた人は口をそろえる。残雪の山並みを背に、3段続く滝のような広々とした景観と、流れ落ちる荒川の豊かな水流は、人々に驚きとともに心の安らぎを与える。

 福島市荒井の福島市荒川資料室の職員で「ふるさとの川・荒川づくり協議会」副会長を務める矢吹稔さん(69)は、遠方から資料室を訪れた人たちには必ず地蔵原堰堤に行くよう勧める。近ごろはウオーキング大会などのコースにも設定され、人々がその景観を目にする機会が多くなってきたが、矢吹さんは「その場に行ってこそ味わえる魅力がある」と強調する。

 「なんといっても清らかな水しぶきをたっぷりと浴びることができます」。矢吹さんは自慢げに話す。堰堤から流れ落ちる水は激しく岩にぶつかり、細かい水滴が飛び散り空気中に漂う。水の粒子をしゃがみ込んだり、両手をいっぱいに広げて受け止め、くつろぐ人たちの姿をよく見かけるという。暑さが厳しい夏の福島市ではちょっとした避暑地になる。

 堰堤は「暴れ川」と呼ばれた荒川の洪水対策として大正から昭和にかけて造られた。石積みによる工法や、上流から水を引く手法などに工夫を凝らしたことで、後の同様な工事の参考になることも多い。歴史的な構造物でもある。

 国内屈指の急流河川とされる荒川。古くから豪雨のたびに人々の生活を脅かした。流域では水防林や霞堤(かすみてい)を造り宅地や農地の保護、氾濫を抑制してきた。その後、地蔵原堰堤の建造により荒川の治水と砂防は本格化し、ようやく現在のような川の安定につながった。矢吹さんは「荒川の恵みだけではなく、人と川の歴史を伝えていくことも役目です」と力を込めた。(矢内靖史)

荒川地蔵原堰堤の地図
 地蔵原堰堤 荒川の治水と砂防のための要となる施設で、国の直轄事業で最も早く着手された。1921(大正10)年に着工し、25年に完成、その後改築され53(昭和28)年にはほぼ現在の姿となった。下流に広がる扇状地の頂点に位置する。堤長は112メートル、堤高8.7メートル、石積粗石コンクリート造。下流側には副堰堤がある。荒川のこれら歴史的治水・砂防事業は、2007年に土木学会の選奨土木遺産として認定されている。

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