【清流あらかわフォーカス<4>】優しい光、夕暮れを舞う

 
ホタルと安原さん荒川沿いのわき水付近で、神秘的な光を放ち舞い飛ぶホタルと安原さん(矢内靖史撮影、比較明合成)

 15年ほど前の夕暮れ。ここで見た光景が忘れられない。大雨に見舞われ、トンネルで雨宿りした後、外に出てみると無数のホタルの乱舞に包まれた。「あれは最高でした。いつかあの光景を、子どもたちに見せてあげたい」

 荒川沿いには、まだあまり知られていないホタルの名所がある。7年前に誕生した「荒川ほたるの森」だ。入り口には大きな看板もないが、夏の夕暮れには家族連れやカップルなど多くの人たちが訪れ、思い思いにホタルの舞を楽しむ。

 福島市荒井の安原光一さん(66)は、ここでホタルの保護に取り組み、ホタルを公開している期間は毎晩のように案内人を務める。「ここではホタルを捕まえても、持ち帰ってもいいんです」。ホタルを手にして感触を感じたり、光る場所を確認して実際に体験してもらうことが安原さんの願いだ。

 ホタルを見られるところは全国各地にあるが、幼虫や餌となる巻き貝のカワニナを放流してホタルの数を維持しているところもある。しかし安原さんは「ありのままの姿を見てほしい」と、環境にできるだけ手を加えないようにしている。

 「ほたるの森」には3カ所に特色がある。荒川本流と農場用水路、それに伏流水だ。それぞれ水温に差があり環境も違うため、6月中旬~8月中旬の長期間にわたり、ゲンジボタルとヘイケボタルの違いも楽しめる。

 東日本大震災後、この場所を残し多くの人たちに見せたいと考えた安原さんは、国土交通省福島河川国道事務所に働きかけ、協力を取り付けることができた。また、駐車場で車の誘導や見学者の案内などを手伝ってくれる地域の人たちも集まってきた。「自然にも、人にも恵まれています」と感謝する。(矢内靖史)

荒川ほたるの森の地図
 ホタル(蛍) コウチュウ目ホタル科に分類される昆虫の総称。日本にホタルの仲間は40種類以上いるが、うち光るのは3分の1程度。発光しない昼行性の種が多い。国内で代表的なのはゲンジボタルとヘイケボタル。ゲンジボタルは雄15ミリ前後、雌17ミリ前後と大型で光も強く、ヘイケボタルより発生時期が早い。ゲンジボタルの幼虫は河川に生息し、ヘイケボタルは主に田や湿地にすむ。

 ※毎月1回掲載します