【清流あらかわフォーカス<5>】自然の神秘、源流にあり

 
池塘と鳥子平湿原ユニークな形の「池塘」と、木道の直線が不思議な造形を見せる鳥子平湿原=福島市土湯温泉町(ドローン撮影・石井裕貴)

 「空から見ると、こんなに面白い形をしているんですね。秘境と言うには大げさですが、知る人ぞ知る場所です」。田中愛さん(39)=自然公園財団浄土平支部=もお気に入りのスポットだ。

 磐梯吾妻スカイライン沿いの路肩にある数台ほどの砂利の駐車スペースに車を止め、高山(たかやま)に向かう登山口から細い山道を10分ほど歩く。道路沿いに看板はあるものの、運転に集中していると気付かず通り過ぎてしまいそうだ。トンボの大群をかきわけ進むと、雨水や雪解けの水がたまる「池塘(ちとう)」と呼ばれる池沼と、整備された木道が現れる。ここが荒川の源流「鳥子平(とりこだいら)湿原」だ。

 湿原を上空から眺めると浮島があるのが分かる。自然がつくったユニークな形をした池塘と、直線と直角で敷かれた木道が対照的だ。小規模な湿原だが、田中さんは「絵はがきのような名庭園の趣を感じさせる」と話す。

 池塘ができるきっかけは、湿原上の小さなくぼみに水がたまり、水生植物が生えることから始まる。次第に水たまりの周りにある植物が成長し、その後、堆積物として積もっていく。積もることで岸が高くなると水たまりは深さを増して池となるのだ。荒川へと通じる水は透き通り、初夏にはモリアオガエルやサンショウウオの卵塊を見ることができる。

 「車から降りてすぐに湿原を見ることができるのは全国的にも珍しい」と田中さん。ここではスカイラインを走る車の音も聞こえない。静寂な空気が流れ、時折高山地帯にすむホシガラスの「ガァー、ガァー」と鳴く声が響き渡るだけだ。阿武隈川に注ぐ1級河川の源には、幾度となく洪水を引き起こしてきた「暴れ川」とは思えないのどかな風景があった。(石井裕貴)

鳥子平湿原の地図
 鳥子平湿原 磐梯朝日国立公園にある、標高1600メートルの湿原。東吾妻山と高山(たかやま)の間のくぼみにある。オオシラビソ林に囲まれた木道があり、湿原の中央部にはワタスゲやツルコケモモが生い茂る。夏はコバギボウシ、秋にはエゾオヤマリンドウ、エゾリンドウが咲く。池塘(ちとう)にはホソバタマミクリやミヤマホタルイが生育する。クマの生息地のため、クマ鈴の携帯が必須。雨の日は登山道が川になるため注意が必要だ。

 ※毎月1回掲載します