【清流あらかわフォーカス<6>】個性強烈、隠れた人気者

 
スミナガシの幼虫アワブキの葉に身をひそめるスミナガシの幼虫(矢内靖史撮影)

 福島市荒井にある「荒川資料室」の近くには一本のアワブキがある。幹は細く、それほど高い木ではない。秋が近づく頃になると、葉に奇妙な姿の昆虫が隠れていると聞いて探してみた。葉を一枚一枚じっくり見るが見つからない。すると後ろから「スミナガシの幼虫ですか」と声をかけられた。

 荒川資料室は、荒川の自然や歴史、砂防事業について紹介している。勤務する国原よし子さん(82)は、荒川のガイド歴18年になるベテランだ。県森の案内人をはじめ長年、自然観察会の講師などを務めてきた。国原さんに教えられてアワブキの葉の先端を見ると、細かい枯れ葉がぶら下がる葉脈に沿って、1センチほどの茶色の芋虫がしがみついているのを発見した。

 国原さんは「無事に大きくなってくれるといいのですが」と心配そうだ。鳥や他の虫に襲われ、生き残るのは決して易しくないという。生まれて間もないためか頭に小さな対の角がある程度で、大きな特徴はなかった。しばらく探していると、「大きな子がいました」と国原さんがうれしそうな声を上げた。

 トランプのジョーカーを思い起こさせるインパクトの強い顔で、体も緑色に変化していた。刺激を感じると頭を振り回す。スミナガシの幼虫は、昆虫ファンあこがれの虫でもある。ここには毎年見に来る人がいるほど、隠れた人気者なのだ。

 小学生たちに荒川の水生昆虫についても教えている国原さんだが、虫には詳しくないと謙遜する。子どもたちの興味は断然、花より虫で、必要に迫られた国原さんが虫について勉強し始めたのは、それほど古くないという。「気持ち悪いとか言っていられませんから」といたずらっぽく笑った。(矢内靖史)

荒川資料室の地図
 スミナガシ チョウ目タテハチョウ科。開長55~65ミリ。本州、四国、九州、南西諸島に分布する。成虫のはねは黒地に青緑色を帯び、墨流しという名のイメージ通り和風な色模様。雑木林の周辺で見られ、樹液によく飛来する。幼虫の体長は最大55ミリ。食草はアワブキやヤマビワで、葉を細工し天敵から身を隠す。さなぎは褐色で、虫食いの痕まで枯れ葉にそっくりに擬態する。


 ※毎月1回掲載します