【清流あらかわフォーカス<8>】険しい道の先に輝く水面

 

天沼のへつり荒川の隠れたスポット、天沼のへつり。険しい道のりの先に幻想的な風景が広がる=福島市土湯温泉町(矢内靖史撮影)

 目の前にそびえる岸壁と巨石の数々が透明感あるエメラルドグリーンの水面(みなも)に映り、幻想的な雰囲気に包まれる。福島市の荒川第1砂防堰堤(えんてい)上流にある天沼(あまぬま)のへつり。川沿いを歩かなければたどり着くことができない、ちょっとした秘境だ。「気軽には近づけないが、豊かな自然を後世に残して魅力を伝えていくのが私たちの役目です」。ふるさとの川・荒川づくり協議会長の佐々木秀明さん(67)は、景色に目を細める。

 地図上では福島市の奥座敷土湯温泉に向かう国道115号に沿って流れる荒川に位置するが、道路から近づくにはかなりの急勾配だ。たどり着くには下流から遡(さかのぼ)るルートに限られる。水の流れや深さを確認しながら川を横断していく。秋などの水量が少ない時期にしか訪れることはできない。協議会は毎年、気候が安定して水量が落ち着く10月下旬~11月上旬に秘境を紹介する探訪会を企画して、市民らに紹介している。

 近くにある荒川第1砂防堰堤からは約1キロだが、歩くと2時間はかかる道のりだ。道中はクマよけの爆竹を鳴らしながらけもの道を進んでいく。ロープを使って崖を下ったり、転がった岩をよじ登り膝下まで水に浸かったりなど、ひと苦労だ。ようやく目的地に近づくと、自然がつくり出した神秘的な造形が見えてきた。さざれ石だ。「雨が降れば川は濁り、増水します。案内人がいないと危険です」。はやる気持ちを抑えるように、佐々木さんが声をかけてくれた。

 「福島市にこんな隠れた素晴らしい場所があるとは思わなかった」。荒川の下流に住む福島市の斎藤達也さん(70)は、探訪会で初めて目にした上流の姿に感動した様子だ。この日の荒川は水量が少なく、穏やかで透き通っていた。水の量で変化する川のたたずまい。一期一会の顔に出合えるのもへつりの魅力のひとつだ。(石井裕貴)

天沼のへつりの地図

 天沼のへつり 地蔵原堰堤から土湯温泉の間にある。奇岩・怪石が塔のようになっており、その間を荒川が流れる。長年の歳月を経て、浸食と風化を繰り返して景観がつくられた。「へつり」は会津の方言で、川に迫った険しい断崖という意味。

 ※勾配がきつい川沿いを登るため、容易に近づけない。沢登りの装備や服装、案内人の同行が必須。周辺はクマやスズメバチが出没するため、十分な対策が必要だ。



 ※毎月1回掲載します