【清流あらかわフォーカス<12>】春を告げる声、いち早く

 
水林自然林水林を流れる水路で、川虫をくわえるカワガラス(石井裕貴撮影)

 「ビイッ、ビイッ」。例年になく早い雪解けが始まった荒川上流の水面上ぎりぎりを、黒い鳥が力強い鳴き声を響かせながら矢のように飛んでいく。声の主はカワガラス。春の季語で漢字では「河烏」と書く。

 周囲の芽吹きはまだだが、豊富な雪解け水の水面に陽光が差し、きらきらと輝き流れる川に春が巡ってきた。春の到来を告げるように岩の上で尾を上げてピクッと動かしたり、翼をパッと半開きにしたり、せかせかと動き回る。「肉眼では真っ黒だけど、望遠鏡でよく見ると実は茶色なんです。水林(みずばやし)にも生息していますよ」。福島市の水林自然林を管理する高橋清勝さん(55)が教えてくれた。

 水林には荒川から取水している農業用水路「荒井堰(ぜき)」の水が流れる。水路沿いに生息するカワガラスの特徴は何といっても泳ぎのうまさ。「渓流の素潜り名人」の異名も持ち、急流をものともせず浅瀬をたくましく歩いたかと思うと、水中にダイブして川虫をついばむ。繁殖の時期は比較的早く、橋の下や滝の裏側にある岩の隙間にコケを使って営巣し、子育てする。

 「水林は一年を通じて自然を楽しむ人や動植物を撮影する人たちが絶えず、カワガラスにも根強いファンがいます。水林では産卵して子育てする姿も見られます。尾っぽを上げる姿がかわいらしいでしょ」と高橋さん。カワガラスが子育てに忙しく動き回っている頃、さまざまなさえずりが聞こえて一気ににぎやかになる。ほかの鳥たちが恋真っ盛りの頃には、カワガラスのヒナたちは巣立っていく。

 荒川は生命の営みや人々の暮らしを支えてきた。人々は自然を守り、幾度となく発生する氾濫から川や財産を守るため、堤防を築いたり木を植えたりしてきた。共生がもたらした水質日本一。その美しさを後世につないでいきたい。(石井裕貴)

福島市水林自然林の地図
 カワガラス スズメ目カワガラス科カワガラス属の鳥。全長は22センチ。全身が黒褐色で覆われ、足は銀灰色。渓流など流れの速い河川に生息し、屋久島以北の全国に分布する留鳥で、一年中ほぼ一定の地域に住む。群れはつくらず、単独やつがいで生活する。色が黒いためカラスと呼ばれるが、ほぼ川で過ごす「川の申し子」でカラスの仲間ではない。安土桃山時代から「かはがらす」の名で知られ「さはがらす」とも言われる。

 「清流あらかわフォーカス」は今回でおわります。