【エールのB面】制作統括・土屋勝裕さん(下) 起用理由は演技の幅

 

 福島市出身の作曲家・古関裕而と妻金子(きんこ)がモデルのNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「エール」は13日から3週目に入る。物語は主人公・古山裕一の青春時代に移り、いよいよヒロイン関内音との運命の出会いへ進み始める。制作統括の土屋勝裕さん(49)に配役の狙いや撮影秘話などを聞いた。

 男性主人公の朝ドラで古関がモデルの古山裕一役は人気俳優の窪田正孝さん(31)が務めている。

 「裕一役の条件はいくつかありました。ナイーブな天才作曲家の役どころにリアリティーを出せる人で16歳からオリンピック・マーチを作曲する50代までを演じ、戦時中の葛藤をしっかりと表現できることです。難しい役ですが、情熱的な役から陰のある役まで幅広い演技ができる窪田さんがぴったりだと思いました」

 金子がモデルで主人公の妻となる関内音役は女優の二階堂ふみさん(25)が務める。約2800人が応募したオーディションから選ばれた。

 「選んだ決め手は最終選考での歌いながらの芝居です。歌手を目指して家を出る音に自らを重ねながら歌ってくれました。気持ちを込めて歌う様子に、社会人になり家を出た私の娘を思い出しました。音役は二階堂さんしかいないと思いました」

 アドリブ満載

 撮影現場ではカメラが回っていないところで窪田さんから福島弁が飛び出すなど笑顔のあふれた雰囲気に包まれている。

 「現場のムードメーカーは裕一の父・古山三郎役の唐沢寿明さんで、アドリブも多いです。3月31日放送の第2話では、三郎が購入したレジスターを披露するシーンがあるが、あの唐沢さんのリアクションもアドリブでした。制作陣は唐沢さんのアドリブが面白くて採用している。唐沢さんは芝居の引き出しが多く、出演者も制作陣もともに楽しんでいます」

 川俣で銀行員

 古関は福島商業学校(現・福島商高)を卒業後、当時の川俣町で伯父が経営していた「川俣銀行」の行員として2年勤務した。川俣銀行時代はどう描いたのか。

 「川俣銀行時代の逸話はいくつかありますが、当時の同僚や行内の雰囲気などは不明でした。川俣町の年配の方に話を聞くと、ダンスを踊る人がいたなど当時の街の様子が把握できました。そこで『ダンスホールのシーンがあってもいいかな』『女性と出会って恋愛展開!?』と発想を膨らませました。出演者も芝居が達者な方々ばかりなので面白いです」

 第7週からの東京編には、昭和を代表する作曲家・古賀政男がモデルの木枯正人が登場する。演じるのはロックバンド「RADWIMPS」のボーカル野田洋次郎さん(34)だ。

 「実際に古関さんと古賀さんは互いを認め合う仲です。コロムビアでも同期ですが、先に古賀さんにヒット曲が生まれ、古関さんは焦りを感じたはず。ドラマでもこの設定はあります。窪田さんと野田さんを見ていると、ライバルで友人という雰囲気がよく出ています。野田さんがギター演奏を始めるとかっこいい。演奏シーンには、野田さんが即興で演奏した曲もありますのでお楽しみに」

 福島への思い

 土屋さんは本県が舞台の朝ドラ「ひまわり」(1996年)の演出に関わった。以降も猪苗代町周辺が舞台の「すみれの花咲く頃」(2007年)、南相馬市が舞台の「絆~走れ奇跡の子馬」(17年)などを手掛け、本県への思い入れは強い。

 「東日本大震災から10年目を迎える中、ドラマを通し福島を応援したいと思いました。物語の舞台は東京に移っても定期的に福島の実家に戻ったり、福島の話題が出たりと、地元の皆さんに喜んでもらえるはずです。音楽に生きる夫婦の波瀾(はらん)万丈の生涯に最後までエールを送ってほしいです」

 【もっと知りたい】当時珍しい蓄音機所有

 古関裕而は1909(明治42)年、父・三郎治、母・ひさの長男として生まれた。家は福島市大町にあった市内有数の呉服店「喜多三」。生家跡は現在、SMBC日興証券福島支店で、生誕の地の記念碑がある。

 店には東北で2台目だったというレジスターがあり、家には当時珍しい蓄音機があった。作曲に目覚めたのは、県師範付属小(現福島大付小)の担任・遠藤喜美治の音楽の授業にみせられたためという。

 家業を継ぐため福島商業学校(現福島商高)に入学。だが、第1次世界大戦後の不況のあおりを受け廃業した。卒業後、川俣町の川俣銀行に勤めたほか、ハーモニカの愛好家でつくる「福島ハーモニカ・ソサイティー」の団員として作曲や編曲、演奏に取り組んだ。

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