【エールのB面】佐藤久志役・山崎育三郎さん 三羽ガラスの絆に共感

 

 朝ドラ「エール」の主人公・裕一(窪田正孝さん)の幼なじみで、本宮市出身の歌手伊藤久男がモデルの「佐藤久志役」を務める山崎育三郎さん。「ミュージカル界のプリンス」が劇中でもプリンスを演じていると話題だ。第13週(22~26日)ではプロの歌手を目指し、新人歌手オーディションで火花を散らす様子に視聴者がくぎ付けとなった。山崎さんがドラマや演じている役、歌唱シーンなどへの思いを語った。

 根っこは繊細

 初めての朝ドラ出演に反響は。
 「祖母がとても喜んでくれました。『いつか朝ドラに出てね』と言われていて、『僕はミュージカルがメインだから出られないよ』と答えていました。放送が始まって、家で毎朝見られるのが楽しみと言ってくれたのはうれしかったです」

 久志は格好いいのにセリフや動きにクスっとくる、いとおしいキャラクター。山崎さんは音楽大で声楽を学び、オペラを歌っていた。自身とも重なる役をどう考えているのか。
 「歌を歌い、ピアノを弾き、周りからプリンスと呼ばれ、ちょっとキザなことを言う。皆さんが思い描くミュージカル俳優の山崎育三郎に近いかもしれませんね。本当の僕は男4人兄弟で育ち、野球をやってという男っぽい世界で生きてきました。久志は明るく社交的だけど、それは自分自身を守るための立ち居振る舞い。根は繊細で人間的な部分もあると思っていて、表面的な部分だけでなく芯の部分も大事に演じています」

 助けられる側 

 東京編では古関裕而がモデルの裕一、福島市出身の作詞家野村俊夫がモデルの村野鉄男(中村蒼さん)の「福島三羽ガラス」が再会した。久志にとって福島三羽ガラスとは。
 「裕一や鉄男を支えているように見えますが、実は久志の方が2人に助けられています。自分にない才能を持っている2人を尊敬し、何でも言い合え、本来の久志を解放できる。全く違うタイプだからこそ、補い刺激し合える仲なんです。僕にも地元に『山崎軍団』(笑)という小学校からの幼なじみがいて、かけがえのない絆があるので久志の気持ちが分かります。お芝居していて福島三羽ガラスのシーンが一番好きです」

 俳優としての窪田さん、中村さんとの共演の感想は。
 「窪田君とは約5年ぶりの共演。以前は勢いのある若手俳優の印象でしたが、今回はガラリと変わって座長の風格を強く感じます。年は僕より下ですが、彼のそんな姿勢に強い刺激を受け、深い信頼を置いています。中村君は鉄男と180度違ってとても穏やか。繊細で心優しくて、裕一のようなタイプなんです。いつも僕と窪田君の話をニコニコうなずきながら聞いてくれます。いざ収録となると途端に鉄男に変わります」

 リハーサルや撮影の合間に3人で話をして雰囲気をつくっている。
 「『これからエールをどうやって盛り上げていこうか』と話をするときもありますし、僕がミュージカルに関する話をするときもあります。最近よく話題に上るのは、窪田君のお弁当。彼は食にストイックで、毎日必ずお弁当を持ってきているんです。しかも体のことを考えたおかずばかり。窪田君の食に関する話を、僕と中村君が興味津々で聞いていることが多いですね」

 久志は突然現れ、達観したことを口にしたかと思うと、また突然いなくなるというような少年だった。
 「第13週では、それだけではない久志の物語が描かれました。実の母親と離れ離れにならざるを得なかったという悲しい過去が明らかになるんです。そんな久志を救ったのが音楽でした。達観した考え方や常に冷静でいられる強さはつらく悲しい過去があったからこそ。僕自身、久志をただのキザなやつとしてだけで終わりたくないと思っていたので、人間的な部分を感じてもらえる機会を得て、とてもうれしいです」

 経験が生きた

 新人歌手オーディションで"スター"御手洗清太郎(古川雄大さん)と火花を散らす展開だった。
 「古川君はミュージカル界でともに頑張ってきた仲間。プライベートも含め長い付き合いがあるので、今回も相談しながら収録に臨みました。久志と御手洗が発声練習をする場面は、刀を構えた侍が対峙(たいじ)するように見合いながら発声を続ける奇想天外なシーンになりました。実はにらみ合う場面はアドリブを交えながら演じている部分が多いんです。ミュージカルならではの立ち居振る舞いを生かし、個性のぶつかり合いを面白い形で表現できたと思っています」

 朝ドラ「エール」の魅力は。
 「タイトルが示すように見る方に寄り添い、励ましのメッセージを送るドラマ。そこに音楽の力が加わることで、より強いメッセージを届けられる。誰だって音楽は身近にあって、音楽に救われながら生きている人がたくさんいると思うんです。ぜひ『エール』という作品から、音楽の力を感じ取っていただきたい。そして大変な今だからこそ、全国の皆さんに見ていただきたいですね」

 【もっと知りたい】下積み生活...作品豊かに

 劇中で注目される裕一、鉄男、久志の「福島三羽ガラス」の元ネタは、日本コロムビアに所属した古関裕而、野村俊夫、伊藤久男の「コロムビア三羽ガラス」だ。3人共同で送り出した初ヒット曲は1940(昭和15)年に発売された「暁に祈る」だった。

 鉄男が営む屋台のおでん屋で3人が酌み交わすシーンがある。これは福島民友新聞社を辞して1931年に上京した野村の実話にちなむ。野村は専属作詞家になる前、厳しい下積み生活を送っている。このとき約2年にわたり台東区・入谷で「太平楽」と名付けた店を経営していた。

 太平楽とは勝手気ままでのんきなこと。「飲みながら歌を」と太平楽を地で行くつもりだったようだ。そのため、客が来ると喜んで酒を酌み交わし、客が来ないと一人で飲み明かした。生活は苦しく、後に「ドロボウ以外は何でもやった」と語っていたそうだ。こうした人生経験が人々の心を打つような作風に表れている。