【エールのB面】福島ことば指導・相樂孝仁さん(下) 古里思う人へ

 
台本を見ながら撮影を見守る相樂さん

 朝ドラ「エール」で、俳優陣に温かみある福島弁(福島ことば)を指導している須賀川市出身の俳優相樂孝仁さん(37)。前回に引き続き、福島弁を指導する際のモットーや難しさ、主演の窪田正孝さんの撮影秘話、古里への思いなどを語った。劇中では「川俣の町人」役として登場しており、俳優としての相樂さんにも注目だ。

 人物像生かす

 -上京するまで須賀川市で生まれ育った相樂さん。福島弁の原点は祖父母にあるというが、出演者の福島弁にはモデルがいるのか。
 「クランクインの前、台本を福島弁に修正するときは家族や親戚を思いながら登場人物のイメージを膨らませました。ただ、実際に撮影では俳優の方々がキャラクターをつくり込みます。僕の当初のイメージと離れてしまいますので、劇中の登場人物の育った環境に福島弁を合わせることにしました。例えば唐沢寿明さんは『老舗に生まれたので豪快さを表現しよう』とか、菊池桃子さんは『お金持ちの家に生まれたお嬢さま』などと考え、濁点や語尾を変化させました。今後も俳優の皆さんがつくり上げる人物像の『味』を生かせるような福島弁を表現していきたいです」

 -全国放送の朝ドラで福島弁を表現するのは難しい。指導で最も大事にしたことは何か。
 「放送を見て福島の皆さんが喜び、全国の人も楽しめる"なまりのバランス"をとることを大切にしています。分かりにくい方言は字幕対応かなと思いましたが、忙しい時間帯でも字幕なしで見やすいようにしなければならないので、できるだけ音や語尾で『福島のニュアンス』を入れて薄めないようにしたいと考えています。ただ、なまりがきついと全国に伝わらず視聴者が置いてけぼりになってしまいます。一方、中途半端になると福島の皆さんが違和感を感じるでしょうから、バランスはすごく難しいです」

 -感情を込めたセリフで福島弁のイントネーションを指導することに苦労した。
 「感情によってイントネーションなどを変化させました。現場では、その感情なら『か』より『が』にしましょうとか、少し音を上げて言いましょうなどと指導して、言葉遣いを変えました。ただ標準語を話す俳優の皆さんに福島弁の微妙な変化をうまく説明できないことがもどかしく感じました。そのため意思疎通を図り、どんな感情なのかを聞き取り、『私だったらこう言います』などと説明しました。話をする時間があればいいのですが、忙しく時間がとれないときもありました。方言指導は繊細な作業が必要なのだと実感しています」

 あふれた言葉

 -主人公・裕一役を務める窪田さんが話す福島弁は特徴をよく捉えている。現場ではカメラが回っていなくても福島弁で話していることがあると聞いた。
 「窪田さんは福島弁を自分のものにしており、うまく操っていると思います。撮影で驚いたことがありました。窪田さんと野田洋次郎さんがおでんの屋台を訪れるシーンで、窪田さんは『あれっ、ここ前来たときあんな』というセリフを話したのですが、実は台本では違っていて『ここって前に...』とだけありました。ほかには括弧書きで『前に来たときがある』と状況の説明があるだけ。僕は何も指導していなかったのですが、窪田さんはアドリブで言ったんです。このセリフは福島の人が違和感なくぱっと話すような言葉で、僕は福島の人がいるような感覚を覚えました。きっと窪田さんがこれまで福島弁を話してきた中であふれ出た言葉だったのでしょう。もちろん放送では、そのままのセリフが流れています」

 役割見つけた

 -大学進学以降、東京で暮らす相樂さん。東日本大震災と原発事故の影響に苦しむ古里・福島に対し何かできないかと心に引っ掛かっていた。
 「東京にいますが、震災以降は福島出身ということで『震災は大丈夫なのか』とよく聞かれるようになりました。それほど大きな出来事だったと感じています。震災後にいわき市で撮影があった際、避難者の方の包み込むような優しさを感じました。昨年の福島ロケでも、多くの県民がエキストラとして協力し、現場は温かい雰囲気と優しい福島弁に包まれました。福島弁の指導は、今までの自分の活動を生かし、地元のためにできることだと再確認しました。震災から10年目を迎えていますが、福島に帰還せず他の地域で生活することを選ばざるを得ない人がたくさんいます。朝ドラを通し全国にいる福島県民に福島弁を届け、懐かしく思ってもらえたらいいですね」

 -福島弁の指導にやりがいを感じている毎日。本県や古関メロディーを通して何を伝えたいのか。
 「福島の朝ドラに寄せる期待が高いと聞いてうれしく思っています。福島といっても中通りや浜通り、会津と地域性があり、それぞれに名物や観光地、良いところがたくさんある。朝ドラを通し全国の方々が福島に興味を持ち、実際に訪れ魅力を感じてもらいたいです。ちなみに名曲ばかりの古関メロディーですが、僕は小、中学校でソフトボールや野球をやっていたので『栄冠は君に輝く』が子どもの頃から身近な曲でした。地元・須賀川出身の特撮監督・円谷英二さんゆかりの『モスラの歌』も古関メロディーだと知って驚いた一人です。須賀川市出身者としては忘れてはいけないですよね(笑)」

          ◇

 さがら・こうじん 1982年、須賀川市生まれ。郡山高、日大商学部卒。2006年、コント集団「桜田ファミィ~リィア」を結成。09年から「劇団殿様ランチ」の作品に出演。純朴な若者や天然キャラ、にぎやかな役からシリアスで暴力的な役まで幅広くこなす。