【エールのB面】古山裕一役・窪田正孝さん 背景に『福島』を感じて

 

 人々に力を与える"応援歌"が再び響き渡る―。福島市出身の作曲家古関裕而がモデルの朝ドラ「エール」の本放送がいよいよ14日から再開する。コロナ禍で異例の再放送となって2カ月半。県民の多くが「続きはまだか」と心待ちにしていた。主人公・古山裕一を演じる窪田正孝さん(32)に作品に懸ける思いや後半の見どころなどを聞いた。

 コロナ禍で3月末から6月中旬まで収録が休止となった。この間、どう過ごしていたか。
 「たくさんの方にエールを見てもらい、各方面から応援や励ましの連絡が届きました。昨年9月から頑張ってきたことが評価されうれしいです。『(二階堂)ふみちゃん』とも連絡を取って『絶対最後まで完走したいよね』と確認し合ってきました。また、休止中に福島弁を忘れないように一人で練習していました。今後も日常的に福島弁を取り入れて福島との距離を近くしたいです」

 6月中旬になってようやく収録が再開した。再開初日の心境や状況はどうだった。
 「新型コロナウイルスの影響で当たり前が当たり前じゃなくなっている。それでも、いつものスタジオに足を踏み入れたとき、以前の場所に帰ってこられてうれしかったんです。ちなみに再開初日の最初のシーンでNGを出してしまいました。気合が入りすぎて前日寝れず、目が開かなかったんです。まるでクランクインのような感覚でした。次のシーンからは、いつもの慣れたやりとりになりましたが...。NGを出したシーンが気付かれないよう祈ってます(笑)」

 現代と重なる

 これから物語は戦争編へと入っていく。戦時歌謡の作曲で注目されて裕一に仕事がどんどん舞い込む展開になる。裕一の心境は。
 「裕一には曲が採用されずレコードも売れずにくすぶってた時代がありましたが、戦時歌謡の作曲で認めてもらえ、『承認欲求』が満たされた瞬間はあったと思います。戦争は人の心をむしばんでいくものです。裕一も戦時歌謡の作曲に葛藤していきます。演じる上で、コロナ禍で人の心がギスギスしている現代と、戦時中の状況が自分の中でつながったのを覚えています。音楽は変わらないが、聴く人の捉え方で良くも悪くもなるものです。古関さんの戦時歌謡は愛情があって、出征兵士だけでなくその家族も思う優しさがあります。だから戦後も作曲家として活動できたのだと思います」

 戦中戦後の古関メロディーで印象に残っているものは。
 「戦中だと『若鷲の歌』(1943年発売)ですかね。メークをしてるときなどに聴いていました。戦後は『栄冠は君に輝く』が大好きですね。ちょうど今、撮影しています。僕は野球少年で神奈川県出身なので、松坂大輔さんの横浜高を応援していました。夏の甲子園でPL学園と戦った試合をテレビの前で正座しながら見ていました。そのとき流れていた『栄冠は君に輝く』が忘れられないです。この曲は勝った人だけではなく、すべての頑張ってる人たちに向けた音楽ですね。野球だけじゃなく、聴いた人すべて、一生懸命取り組み、頑張って生き、苦労してる人へささげる曲だと感じて改めて好きになりましたね」

 心若い2人に

 古関裕而という実在の人物をモデルにした「古山裕一」への向き合い方は。
 「奥さんや家族を大事にしている部分は古関さんとリンクしている。一方でドラマの展開などでフィクションになってしまっている部分もありますが、古関さんのバックボーンである古里・福島の風景を感じながら音楽を届けるイメージは裕一も変わらないのではないでしょうか。劇中の夫婦ですが、ふみちゃんとは『いつまでも心が若い2人でいよう』と話しています。ですので、劇中で子どもがいないときや真面目な話をしているとき以外はスキンシップを増やすようにしています。ちなみに僕自身の理想の夫婦像はなんでも言い合える仲ですね」

 新型コロナウイルスに感染して3月に死去した志村けんさんは、劇中で西洋音楽の作曲家・小山田耕三を演じている。志村さんと共演して感じたことは。
 「最初に志村さんに会ったのはバラエティー番組で、すごく気さくに話し掛けてくださいました。エールの現場でも『朝ドラ大変?』と聞いてくださったり、志村さんが演じるだけで作品が引き締まっていました。志村さんは子どもの頃からテレビで見てたヒーローだったので、そんな方が真っ正面に立ったときに『自分はなんて未熟なんだろう』と感じました。裕一も背筋が伸びるような感覚に何度もなったんですけど。志村さんの演技には背景が見えました。たった一言のセリフで、背景を見せてくれるのはすごいと感じました」

 元気届けたい

 放送再開を楽しみに待っている福島の視聴者にメッセージを。
 「(昨年のロケで)福島の地を実際に歩き、古関さんの軌跡をたどりました。撮影は東京ですが、絶対に忘れないのは古山裕一の背景に福島があること。山だったり、川だったり、空気だったり。福島の自然をバックボーンにして僕は演じているのです。古関さんが福島を大事にしたように、僕も福島を大事にしています。そこが全国の皆さんに届けば良いなって思います。福島に元気を届けるため、ふみちゃんと一緒に頑張っていますので後半戦を楽しんでもらえたらうれしいです」

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 くぼた・まさたか 1988年生まれ、神奈川県出身。主な出演作に映画「東京喰種 トーキョーグール」シリーズ、「初恋」、ドラマ「デスノート」「僕たちがやりました」など。NHKでは、連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」「花子とアン」、大河ドラマ「平清盛」などに出演。