【 識者は語る 】 菊池医院院長・菊池信太郎氏

 
【 識者は語る 】 菊池医院院長・菊池信太郎氏

 福島民友新聞社は2014年11月から半年余りにわたり、県内の子どもに関するさまざまなデータを分析しながら、実情と課題を連載で追う「子どもたちは今−ふくしまの現場」を掲載してきた。この中では震災、原発事故から丸4年が過ぎた今も、かつての日常を取り戻せていない子どもたちに出会い、その解決の道を考えた。一方で、県外に残る誤った認識とは違って、たくましく生きようとする姿もあり、周囲に希望をもたらしていた。連載終了に合わせ、2人の識者に課題と対応について、あらためて語ってもらった。

 「肥満解消」全県的対策を 

 震災、原発事故直後、子どもたちは屋外に出ることを制限され、体を使って遊ぶ機会を失った。時間の経過に伴いそうした状況は改善されていったが、一時制限されていたため「遊び方が分からない」「遊ぶ習慣がない」という問題が生じている。例えばテレビゲームを手にするのが以前より幼い時期になるなど、原発事故の影響で変化した生活習慣が身に付いたためだ。

 子どもは小学校低学年までに脳が発達し、体を扱う能力を身に付ける。この時期に積極的に体を使って遊ばせる必要がある。子どもたちに体を使った遊びの方法、その楽しさを伝えていくべきだ。子どもからみて自発的に遊びたいと感じるような公園の整備などが、行政には求められる。

 放射線そのものの影響ではなく、肥満傾向や体力・運動能力の低下など、原発事故がもたらした「間接的影響」は今後も続くと心配されている。肥満は「万病のもと」。食生活など、太る生活習慣が子どものころに身に付いてしまうと、大人になってもそのままになる可能性が高く、生活習慣病にかかるリスク(危険)を抱えてしまうことになる。

 ただ、肥満解消の取り組みを家庭や学校だけに求めるのは間違いだ。例えば外食産業に健康的な食事の提供を促したり、小売業にもそうした食品の販売を求めたりと、産業界も巻き込んだ全県的なキャンペーンが必要ではないか。

 震災、原発事故後、子どもたちの成長発達、取り巻く環境などへの県民の関心は高まっている。しかし、そうした関心の高まりを国や県の政策、予算はしっかり反映しているだろうか。来年度以降の復興予算をめぐる議論が行われているが、本県の子どもたちのための事業がどれほど議論されているか、疑問だ。

 県は「日本一元気でたくましい子ども」を育むことを目標に掲げている。実現できれば、本県で生活する子どもたちに向けられる外部からの誤った認識や、風評被害を払拭(ふっしょく)するに当たって、この上ない証拠となる。本県の子どもたちが自分のこれまでの生活に自信を持つことにもつながる。掛け声だけでなく、子どもの視点に立ったまちづくりなど実際に効果の出る取り組みを県や国に求めたい。

 きくち・しんたろう 東京都出身。慶大大学院修了。医学博士。専門は小児科一般、小児呼吸器。郡山市の屋内遊び場「ペップキッズこおりやま」を運営する郡山ペップ子育てネットワークの理事長を務める。昨年6月から現職。44歳。