【 柳津町・西山温泉(下) 】 表情豊か八つの源泉 地熱発電と共生
柳津町の静かな山あいにある西山温泉の魅力は、何といっても源泉の種類の豊富さだ。滝谷川沿いの旅館一軒一軒を訪ねていくと、色合いや温度、湯の花の量など、それぞれ表情の違う温泉に出会うことができる。「全国を見渡しても、これだけ源泉が多彩なのは珍しいです」。「会津西山温泉滝の湯」の女将(おかみ)、金子早苗さん(47)がそう教えてくれた。
西山温泉の発見は今から1300年前の717(養老元)年と会津正統記に記されているが、現在の温泉郷が形づくられたのは明治時代ごろ。八つの源泉を巡ると万病が癒えるとされ、長期滞在で療養する湯治客でにぎわった。
戦後の旅行ブームを経て、転機となったのは1986(昭和61)年に始まった柳津西山地熱発電所の開発。温泉に与える影響を危惧する声などで他地域では地熱発電所の整備が進まないケースもある。しかし、西山温泉では、事業者が温泉への影響はもとより、工事用トラックの運行状況など詳細な情報まで住民に伝えることで、温泉と地熱発電所が共生してきた。その取り組みはモデルケースとして全国的にも注目を集めている。
◆気負わずに接客
近年は個人旅行が主流となり、静かな雰囲気でのんびりと過ごす時間を好む人も増えた。1899(明治32)年創業の「滝の湯」はそんな旅行者に最適な旅館だ。
客室は全10室。100%源泉掛け流しの温泉はとろみのある「滝の湯」と、透明な「荒湯」の2種類の源泉を利用。露天風呂と内風呂があり、露天風呂は女性専用時間も設けている。
ゆっくり温泉につかった後は地元の山菜などを使った夕食を楽しむことができる。調理する主人の金子孝一さん(43)は千葉県内のホテルで板前として長年修業した経験があり、味は保証付きだ。近くを流れる滝谷川のせせらぎの音が心地よく響き、夜は周りから明かりが消え、晴天時は満天の星空を眺めることができる。
茨城県出身の早苗さんが、孝一さんとの結婚を機に滝の湯で働き始めたのは約20年前。源泉を利用したオリジナルの化粧品を開発するなど、豊富なアイデアで経営を支える。西山温泉が開湯1300年を迎えた昨年は、首都圏のメディア関係者らを招いたツアーを企画。交流サイトのフェイスブックを活用するなど情報発信にも積極的だ。
結婚前は孝一さんが修業を積んだホテルで一緒に働いていたため、当初は「ホテル仕込み」の折り目正しい接客を心掛けていた。しかし、今の心持ちは少し違うという。「お客さまが求めているのは別のものだと、働くうちに分かりました。今は気負わず、家庭的な雰囲気を心掛けています」
いにしえからの名湯を受け継ぐ金子さん夫妻の細やかな心配りが、大勢の人を「また訪れたい」という気持ちにさせているのだと感じた。
【メモ】会津西山温泉滝の湯=柳津町砂子原字長坂829。日帰り入浴可(午前10時~午後4時)。泉質は塩化物泉。
≫≫≫ ほっとひと息・湯のまちの愉しみ方 ≪≪≪
【「PR館」下旬に再オープン】西山温泉の近くには東北電力の柳津西山地熱発電所があり、併設するPR館では地熱発電の仕組みや歴史を学ぶことができる。現在は展示品の改修のため休館中で、今月下旬に再オープンする。館内の地底を再現したコーナーでは、モニターや模型で地底の様子や地熱発電の設備を紹介している。実際に使用された、地面を掘るボーリングのロッドなども展示されている。申請すれば発電所の見学も可能だ。PR館は入場無料。開館は午前9時30分~午後4時。月曜と冬期間休館。
〔写真〕柳津西山地熱発電所のPR館
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