【 郡山市・休石温泉 】 時を超えた癒やしの地 小鳥さえずる自然美
露天風呂に足を入れると、ウグイス、コマドリとともに「日本三鳴鳥(さんめいちょう)」に数えられるオオルリの鳴き声が響き渡った。小鳥のさえずりを聞きながら味わう自然美と源泉掛け流しの湯。郡山市中心部から車で約30分。日々の喧騒(けんそう)から少しだけ離れた先に至福のひとときがあった。
休石温泉の歴史は古い。1057(天喜5)年、平安時代後期の武将源義家が、父頼義と共に奥州征伐に向かう中、この土地を戦の拠点にした。そして将兵たちが温泉を見つけ、戦傷兵を治療させたという。義家が腰を下ろし、霊泉を眺めたことから、その石が「休石」と呼ばれるようになったとされる。「休石」は同温泉から西に約50メートル歩くと静かにそびえ立つ。
約180年前、安積郡の名士だった国井家が休石温泉を買い取り、温泉宿として生まれ変わった。旅館名には、国井家が所有していた同市大槻町の土地の地名「太田」を取り入れたという。代々、個人経営で歴史と伝統を引き継いできたが、2008(平成20)年、会社経営に転換し、旅館自体も全面リニューアル、新たなスタートを切った。5代目社長の国井正浩さん(52)は「露天風呂は自然が見えるのが一番」と、美しい自然が広がる旧館ロビーだった場所に露天風呂を移した。
標高約500メートルのこの地では、夜にはフクロウの鳴き声も聞かれるという。露天風呂はヒノキと岩を使い、自然のぬくもりを目と体で堪能できた。露天風呂から見える自然は四季折々の姿を見せ、季節の移ろいを感じ取れる。湯を出ると、いつの間にか肌がすべすべになっていた。
◆名物のコイと山菜
森林のすがすがしい香りを浴び、心身ともに疲れを癒やすと、郡山名物「コイ料理」が待っていた。売れ筋のコイのあらい、コイのうま煮、輪切りにしたコイをみそ汁で煮た煮込み料理「コイのコイこく」がそろう三品定食(2500円、税込み)を味わう。どれもコイ独特の臭みはなく、ご飯に合い食が進んだ。「コイ料理は100年以上前から提供している。温泉とともに旅館の名物ですよ」と国井社長。休石温泉の数々の魅力に引き込まれていった。
「昭和初期には農繁期を終えた農家の人たちが数日間、泊まって疲れを癒やしていたんだよ」。国井社長の母で女将(おかみ)の八重子さんが教えてくれた。八重子さんが奥会津に出向いて採ってくる山菜は絶品。この時期は山菜と温泉を楽しもうと、県外からのリピーターも多いそうだ。
温泉近くに住む70代の主婦は、50年以上前から利用する。「自然が素晴らしく、時を忘れゆったりとした時間を過ごせる。まさに至福の時だね」とほほ笑んだ。
戦傷兵の傷を治したという湯が現代人の心も癒やしてくれている。温泉の力はいつの時代も変わらない。
【メモ】休石(やすみいし)温泉・太田屋=郡山市逢瀬町多田野字休石29。泉質はカルシウム・ナトリウム、硫酸塩泉。日帰り入浴可(午前9時~午後9時)。
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【県産果物でワイン、リキュール】休石温泉・太田屋の近くには、醸造施設「ふくしま逢瀬ワイナリー」がある。県産のモモ、ナシ、リンゴ、ブドウを使ったワインやリキュールなどを求める人でにぎわっている。醸造施設は東日本大震災からの復興支援を目的に、県内の農家と連携した果樹農業6次化産業プロジェクトとして2015(平成27)年10月に完成した。市内を中心に百貨店やホテルなどでワインなどを販売している。営業時間は午前10時~午後4時。月曜休業。
〔写真〕県産ブドウなどを使ったワインを販売している「ふくしま逢瀬ワイナリー」
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