【 福島市・信夫温泉 】 つり橋の先は『別世界』 川音響く美肌の湯
秘湯への入り口は一本のつり橋のみ。森に沈む秘湯の一軒宿だ。JR福島駅から西に約10キロ。磐梯吾妻スカイラインへ導く高湯街道を西に車を走らせると、新緑豊かな山あいに「美肌の湯のんびり館」と書かれた看板が見えてくる。記者は福島市出身。子どもの時から近くを通るたびに気になっていたのが、木々の間からのぞく長さ70メートルのつり橋と、その奥にたたずむ旅館の存在だった。
今回訪ねる機会を得て、胸躍らせ車を走らせた。つり橋の手前に車を止めると、「幸福(しあわせ)橋」と記されたつり橋が見えてくる。命名者は三宅義信氏と書いてある。東京、メキシコ両五輪ウエイトリフティング金メダリストの三宅氏は、信夫温泉ファンの一人という。
◆マタギが発見者
つり橋を静かに渡ると、川音が大きくなってくる。つり橋の下を流れるのは福島市中心部へと流れる須川の上流部。つり橋から川底まで10メートル以上はあるだろうか。橋下をのぞくと温泉の影響なのか、淡いブルーの水の中から川底が見える。まぶしい緑と、渓流の音の響き。日常の喧騒(けんそう)を離れ、別世界に引き込まれるようだ。
信夫温泉の歴史は100年ほど前にさかのぼり、マタギが自噴していた温泉を発見したと伝えられている。それ以降、脈々と受け継がれてきた温泉だったが、15年ほど前は営業停止状態だった。運営母体が物流保管などを手掛ける前山倉庫(茨城県)に代わり、建物の改修を経て生まれ変わった。同じ「のんびり館」グループは、郡山市三穂田の温泉センターをはじめ、猪苗代町の沼尻温泉や近くの高湯温泉で旅館を展開している。
取締役女将(おかみ)の小島美喜子さん(50)は「オーナーはつり橋と泉質が気に入った」と説明する。信夫温泉はアルカリ性の単純硫黄泉。乳白色の温泉として知られる酸性硫黄泉の高湯温泉から約5キロしか離れていないが、泉質は全く異なる。「少ししか離れていないのに違う。不思議でしょ」と小島さん。美肌の湯らしく、体を湯に入れると「つるつる」とした感触が出てくる。小島さんは「若返りの湯なんですよ。カップルで宿泊していただくことが多いです」と笑顔を浮かべた。
◆半数リピーター
5000坪の敷地内に源泉がある。源泉掛け流しのため、季節によって湯量を変え温度調整している。41度に設定された湯は心地よく、ついつい長湯してしまいそうだ。露天風呂の目線の高さは地面とほぼ同じ。山肌が迫ってくるように見える。近くにシカやキツネが姿を見せることもあるという。
渓流沿いの貸し切り露天風呂やスイートルームの客室露天風呂は、川音を楽しみながら入浴できる。宿泊客のほぼ半数は繰り返し訪れるリピーターで、関東圏からのお客が多いという。
吾妻山に抱かれた福島市西部には魅力的な温泉が多いが、また一つ、隠れた名湯を見つけることができた。
【メモ】信夫温泉のんびり館=福島市桜本字木通沢(あけびざわ)4。日帰り入浴不可。泉質は単純硫黄泉。
≫≫≫ ほっとひと息・湯のまちの愉しみ方 ≪≪≪
【純日本庭園で楽しむスイーツ】信夫温泉から車で約10分。通称フルーツライン沿いにある浄楽園は、池泉廻遊式の純日本庭園が美しい。2万5000平方メートルの庭園内では四季折々の植物などがつくり出す景観を楽しむことができる。園内の茶屋で堪能できる抹茶ぜんざいやお汁粉などのスイーツも人気が高い。入場料は大人(中学生以上)500円、小学生250円、小学生未満は無料。開園は3月中旬から11月末まで。開園中は無休。時間は午前9時~午後5時(3~9月)で、閉園時間は10月が午後4時30分、11月は同4時。
〔写真〕四季折々の変化が楽しめる純日本庭園がある浄楽園
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