【 塙町・湯岐温泉 】 「源泉」がそのまま湯船に 実家へ帰った気分

 
岩間から噴き出る源泉がそのまま湯船に流れ込む岩風呂。温度は高くないが体はぽかぽかと温まる

 うたい文句は「第二の実家へお帰りなさい」。安らぎを求め、塙町の中心部から南東の丘陵地へ車で15分ほど進むと「湯岐(ゆじまた)温泉」の入り口が見えた。

 山形屋旅館は、緑に囲まれた温泉街に残る2軒の一つ。標高500メートルにあるためか、町中より幾分涼しく感じる。旅館と住宅のほかは豊かな緑と青空しか見えない。

 旅館に着くと、8代目の大森哲司さん(69)、女将(おかみ)の妻絵美子さん(69)に食事どころの和室へ案内された。畳の上に置かれた座いすに座ってくつろぐ。2人の穏やかな笑顔と和室の落ち着いた雰囲気に、幼少期に楢葉町の祖父母の家を訪ねたことが思い出された。「実家に帰ったような気分で、心も体も休めて」と大森さんが笑った。

 同旅館の目玉は、離れにある岩風呂。混浴だが女性専用の時間もある。岩の間から噴き出す源泉がそのまま湯船に入っているのは全国的にも珍しいという。弱アルカリ性の単純泉は美肌効果が高く、擦り傷、やけどに効くとされる。肩まで湯につかり、自分の腕をなでると、今までにない滑らかな感触があった。

 温度は39度前後で、いつまでも入っていられそうだ。湯治で訪れる人が1日に3、4回、30分以上の入浴を繰り返すというのも納得。湯につかるとどんどん体は温まり、顔から汗が噴き出してくる。十分に体が温まったと感じて、岩風呂を出た。自分では長風呂をしたつもりだったが、時計を見たら15分もたっていなかった。和室に戻ると大森さんに「もう上がっちゃったの」と笑われる。止まらない汗は恥ずかしさからではなく、体が芯から温まった温泉効果だ。

 ◆鹿も傷癒やした

 湯岐温泉は古くから、湯治場として知られていた。湯岐の地名は「ゆじまた」と読むが、「ゆぢまた」と書かれているのをところどころで目にする。同旅館のパンフレットもその一つ。「湯治場として知られていたから、治療の『ち』が使われているのではないか」と大森さんが教えてくれた。

 温泉が発見されたのは1530年ごろ。鹿が温泉で傷を癒やしていたのがきっかけと伝えられ、「鹿の湯」とも呼ばれる。江戸時代には棚倉藩、水戸藩のほぼ中間に位置していたことから、双方から来客があって栄えたという。

 山形屋旅館は開業から100年以上。1970年代に県道整備、バスの開通などで交通状況が良くなり、遠方からの来客が増えた。今もいわき市、茨城県などから週1回以上通う常連客がいるという。

 「周辺で採った旬の山菜、自家製の漬物を用意してお客さんを待っている」と楽しそうに話す大森さん。家族を迎えるような、おもてなしの心が人気の秘訣(ひけつ)だろう。次に訪れるときは、もっと長く湯につかり、ゆっくりと流れる時間を楽しもう。

 【メモ】湯岐温泉山形屋旅館=塙町湯岐字湯岐31。家族向けの貸し切り風呂もある。日帰り入浴1回300円、1日500円。

塙町・湯岐温泉

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 【「ダリアソフト」ここだけの逸品】山形屋旅館から15分ほどかけて丘陵地を下り、塙町の中心部に戻ると、道の駅はなわがある。同町の中心を南北に流れる久慈川の岸辺、国道118号に面した道の駅では、町内の農家が育てた新鮮野菜、昔懐かしい味覚の菓子や町産品の麺、弁当や総菜などが販売されている。レストラン、軽食どころ、観光案内所もある。町の花「ダリア」のソフトクリームは、ダリアの爽やかな香りとさっぱりとした味わいが特徴で、道の駅の軽食どころだけで食べられる逸品だ。営業時間は午前9時~午後6時。

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〔写真〕塙町の花「ダリア」のソフトクリーム