【 南会津町・木賊温泉 】 色変わる『自然の神秘』 川べりの岩風呂

田園風景が白い花のソバ畑に変わり、やがてとんがり帽子の山ばかりになった。南会津町の秘湯を目指して福島市から車を走らせること約180キロ。目的地の小さな温泉集落「木賊(とくさ)温泉」に到着した。
木賊温泉は約1000年前の平安時代に源泉が見つかった。お目当ての「岩風呂」は川端にあり、24時間いつでも入れると会津勤務時代から耳にしていた。ただ、会津若松市からも車で約2時間。訪れる機会を逃し続けていたが、ついに福島から足を向けた。
目的の浴場は、大物のイワナやヤマメも釣れる西根川に沿うように南北に走る町のメインストリートの中間地点にあり、地元が管理している。石の階段を下りた川べりに建てられ、入り口に扉もなく、湯船のほかには簡素な脱衣所があるくらい。情緒たっぷりの混浴露天風呂だ。昨年10月の台風被害で脱衣所の扉などが流されてしまったというが、地元住民と利用客の寄付で1カ月後には再び小屋が建て直され再開した。増水でたびたび壊れてもすぐ修復される。入り口前の御礼の貼り紙や寄付者の名札の数から、この場所がいかに愛されているのか、うかがい知れる。
洗い場や水道はなく、岩をくりぬいたような湯船が二つあるだけ。泉質は単純硫黄泉で、源泉は約45度。先客の男性が、川上の湯船が熱めで、川下の方は少しぬるいと教えてくれた。まずは熱めの湯の方に。ほのかに硫黄の匂いがする。湯船の中にある大きな石が腰掛けにちょうど良く、のんびりと入っていられた。この日は残念ながら雨で、清流のせせらぎは見られなかったが、それでも山霧に包まれる自然浴に癒やされる。
「岩風呂の湯の色は熱い時は緑、ぬるくなると透明から白くなるのです。気温や地下水の影響のようです」と温泉の色の特徴を教えてくれたのは岩風呂からほど近い旅館井筒屋の橘和成さん(62)。集落には6軒の民宿と旅館があり、地元で採れたイワナやヤマメ、山菜、きのこ料理もリピーターの心をつかむ。「特に利用者が増える季節は秋。岩風呂の対岸に紅葉が見られるので人気です」とこれから迎える繁忙期を心待ちにしていた。
◆住民の憩いの場
岩風呂から約400メートル離れたところにもう一つ共同浴場「広瀬の湯」がある。木造の年季の入った小屋造りで岩風呂同様に地元で管理している。こちらは男女別の室内風呂で、シャワー付き。地元住民の利用が多く、温泉が憩いの場となるほのぼのとした雰囲気も小さな温泉地の魅力の一つだろう。
初めてでは読めない「木賊」という地名の由来は、小さな竹のような草で天然のヤスリとして利用されていた「トクサ」の群生地だったことという。旅の疲れがヤスリがけでそぎ落とされたような湯上がりの爽快感。遠出したかいがあった。
【メモ】木賊温泉「岩風呂」=南会津町宮里字湯坂1986。料金200円。年中無休。
≫≫≫ ほっとひと息・湯のまちの愉しみ方 ≪≪≪
【「きのこ茶づけ」や薫製人気】岩風呂へと下る階段の道路向かいにあるのは、1960(昭和35)年創業の平野物産店。地元で採れた山菜などを加工し、販売している。人気商品は、数種類のキノコをしょうゆなどの調味料で煮た「きのこ茶づけ」、桜チップで薫製にしたサンショウウオなど。特産の赤カブは10月から3月ごろまでの期間限定で取り扱っている。舘岩でしか赤く育たないと言われる不思議なカブは、昔からの栽培方法で、8月に種をまき、2カ月後に収穫される。甘みがあって生でも食べられるが、漬物が一般的だ。年末年始の贈答品としても人気が高い。
〔写真〕キノコの瓶詰めなど、地元産品が所狭しと並ぶ平野物産店
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