【 いわき市・神白温泉 】 飲める源泉『元気の水』 潮風近い緑の森

 
いわき市小名浜の”奥座敷”にある「神白温泉 国元屋」の貸し切り風呂。半露天風呂のようになっている

 いわき市小名浜でも、目の前に広がる景色は緑の海。三方を小高い山々に囲まれた"小名浜の奥座敷"にある「神白(かじろ)温泉 国元屋」。港町から少し離れていて特有の騒がしさもなく、海沿いを散策した後にぴったりだ。身も心も休める純日本建築の母屋には風情が漂う。

 母屋に入ると、すぐ左側にある大きな神棚が目に飛び込んでくる。5代目女将(おかみ)の伊藤麻奈美さん(48)によると、歴史ある温泉だからこそ、神棚を見てもらいたかったのだという。湯船を案内してもらうと、無色透明のお湯が見えた。早速手を入れると、すべすべした化粧水のような柔らかい肌触り。源泉温度が12.4度のため、高めの温度に加熱している。湯船付近には蛇口があり、調節して源泉を加えられ、源泉掛け流しの雰囲気を楽しめる。自宅のお風呂のような心地よさも共存している。

 伊藤さんから「体の内外がきれいになる温泉です」と聞いたが疑問が浮かんだ。「体の内側とは」。その答えは浴場のそばを通ると、すぐに分かった。近くの廊下に「飲泉所」なる水道が。備え付けてある紙コップで一口飲むと、硫黄の香りと甘さが口いっぱいに広がる。源泉は、胃腸病や糖尿病などに効くとされ、温泉利用者は2リットルまで持ち帰ることができる。古いコメでも源泉で炊くと、新米のように甘くなるのだという。

 神白温泉には、温泉の効能を伝える物語が残る。1881(明治14)年ごろ、造り酒屋を営んでいた初代主人は体が弱かった。ある夜、不動明王が枕元に立ち、神白川近くの湧き水を沸かしてつかるようお告げがあった。お告げに従うと初代主人は体が良くなり近くの国造神社にお参りに訪れる人のため、温泉を設けたり、"元気の水"として振る舞った。

 ◆ゼロからの開始

 130年以上の歴史を持つ宿で、改修などを行っていたが、2011(平成23)年の東日本大震災で被害を受けた。

 源泉は止まらなかったが、土が混じったような黒い温泉に。周囲では水が止まっていたため、復興支援の警察官やボランティアがお風呂に入りに来る姿もあった。

 同年、宿を継いだ伊藤さん夫婦はゼロからのスタートを切った。震災後は修復箇所を分けながら営業を続け、昨年に全面的な修復を終えた。すると、震災前とは違う客層が増加。20~30代や若い家族連れが訪れるようになった。

 訪れる人の中にはぜいたくな雰囲気を独り占めしたいのか、会員制交流サイト(SNS)で紹介すると言いながらも、なかなか紹介してくれないお客さんもいるのだという。「のんびりした雰囲気を満喫してもらえればいいんです」と伊藤さん。その優しい笑顔と特徴的な温泉の魅力は、一度知ったら忘れられない。

 【メモ】神白温泉 国元屋=いわき市小名浜上神白字追分30。立ち寄り湯は中学生以上600円、小学生300円、幼稚園児まで200円。時間は午後1~9時(土、日曜、祝日は午前10時~午後9時)

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 【「潮目」テーマの環境水族館】国元屋から南へ車で約10分進むと、大勢の観光客でにぎわう環境水族館「アクアマリンふくしま」がある。黒潮と親潮の交わる「潮目」がテーマで、オホーツク海や熱帯アジアの自然などを再現。本県沖のさまざまな種類の魚や、動物も飼育している。タッチプール「蛇の目ビーチ」などもあり、大人から子どもまで海について学べる。開館時間は午前9時~午後5時30分(冬季は同5時)。入館料は大人1800円、小、中学、高校生900円、未就学児無料。

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〔写真〕海の生物について学べる「アクアマリンふくしま」