【 福島市・赤湯温泉 】 赤と白の顔持つ「秘湯」 看板犬がお出迎え

 
鉄分を含んだ赤褐色のお湯は、けがにも効くとリピーターも多い。窓の外には紅葉の景色が広がる

 福島市中心部から西に約1時間。車を走らすのは安達太良連峰に抱かれた山道。紅葉のトンネル、そして砂利道を下る。赤湯温泉「好山荘(こうざんそう)」は、土湯峠温泉郷にある赤い屋根が目印の一軒宿。秘湯の情緒を感じさせる2階建ての旅館だ。

 玄関を入ると看板犬のパグ「小次郎」が鳴き声で来客を知らせる。「よく来たね」。女将(おかみ)の今泉ひろ子さん(74)が笑顔で出迎えてくれた。周囲は黄色や赤色の紅葉で染まっている。

 館内は木造の懐かしく素朴な雰囲気が所々に残る。なぜ赤湯なのか。「鉄分が空気に触れて温泉が赤くなるの」と女将。赤褐色の単純泉を楽しむため旅館を訪れるリピーターは絶えない。

 温泉の歴史は約50年ほどさかのぼる。開業は1967(昭和42)年。当時、現在の旅館近くにあった森林管理署の寮の管理者を務めていた先代の初治さんが開業した。寮には温泉があり、作業員の体を癒やしていた。しかし寮が移転。先代が寮の跡地を買い求め、温泉を開業したという。女将の今泉さんは「先代が亡くなり、詳しく聞けなかったんだけどね」と笑う。

 ◆SNS映え抜群

 取材を始めてから1時間。標高約1200メートルに立つ旅館は気温16度と冷え込んできた。「寒いでしょ。温泉は温かいよ」。女将の言葉に甘えさせてもらうことにしよう。

 木造の浴場に入ると、窓から見える紅葉に思わず感嘆した。40度と若干ぬるめ。足を伸ばすと少し肌がぴりぴりする。神経痛とリウマチに効能があるというお湯は、冷えた体を芯まで温めてくれた。

 温泉を上がると女将が「白湯もあるよ」。実は赤湯だけではなかった。白湯と呼ばれる硫黄泉も楽しめるのだ。浴場は赤湯から離れた2階にあり、主に宿泊者限定にしている。硫黄泉だが硫黄の匂いは少ない。「見晴らしの湯」と名付けた露天風呂が何とも心地よい。館内外には計五つの浴場があり、来館者はそれぞれの浴場をゆったりと楽しんでいる。

 東日本大震災による危機もあったという。人気が高かった「赤湯の丸風呂」は湯船が砕けてしまい、玄関やトイレが壊れる被害も出た。支えてくれたのは常連客の声だった。「一つだけでもいい。男女で交互に入るから赤湯に入りたい」との電話が励みになった。

 震災後は客足が以前より減った時期もあったが、つらいことばかりではない。近年は顔なじみの客のほかに、ネットや会員制交流サイト(SNS)を見て訪れる20~30代の客層も増えているという。赤湯と好山荘から見渡す景色は絶好の"インスタ映え"となるからだ。

 来館者の楽しみは温泉のほかにもある。きれいな星空と女将の手料理だ。「疲れた時にはいつでもおいでね」。看板犬の小次郎と一緒に見送ってくれた女将の言葉が心に残った。

 【メモ】赤湯温泉「好山荘」=福島市土湯温泉町字鷲倉1。日帰り入浴可。営業時期は4月中旬から11月末まで。

福島市・赤湯温泉

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 【季節の花広がる四季の里】山道が続く好山荘へ向かう前に少しひと息つくのもいい。場所は福島市中心部と好山荘の中間にある「農村マニュファクチャー公園 四季の里」。市中心部から約20分の距離にあり、季節の花を観賞できる「花の丘」や広大な自然を満喫できる「水と緑の広場」は日常の喧騒(けんそう)を忘れさせてくれる。一人でも家族でも楽しめるのが四季の里の魅力。施設内にある工芸館では、こけしの絵付けやガラス製品製作(要予約)などを体験することができる。

福島市・赤湯温泉

〔写真〕日常の喧騒を忘れさせてくれる「花の丘」