【 喜多方市・熱塩温泉 】 湯と食に愛情込めて 観音様が見守る風呂
「喜多方に温泉があることが、意外と知られていない」
今回訪れた喜多方市熱塩加納町の「ホテルふじや」の安田実社長(43)が開口一番に話した。市中心部から車で約20分。新緑と紅葉が入り交じる自然豊かな場所の熱塩温泉に旅館がある。ラーメンと蔵の印象が強い喜多方だが温泉もある。熱塩温泉の源泉は塩分を多く含んでおり、ほかとはひと味違うらしい。そんなお湯を求めて向かったのだ。
熱塩温泉は、その名の通り塩分を多く含む。諸説あるが、太古に地殻変動で海水が盆地に浸透し、地熱で温められ、地表に塩辛い熱湯がわき出したとされる。近くには約650年前に源泉を見つけたとされる源翁和尚が建立した示現寺もある。かつては東山温泉(会津若松市)よりもにぎわったという話も伝わる。
「ホテルふじや」の創業は1935(昭和10)年。疎開などで福岡県から移り住んだ安田社長の祖父母らが始めた。囲炉裏(いろり)もある館内はどこか「ただいま」と言いたくなる懐かしさ。温泉の源泉は68度。泉質はナトリウム・カルシウム塩化物泉。体が温まる時間が長いとされ、疲労回復のほか子宝の湯として重宝されている。
さっそく温泉に案内してもらい、湯船につかった。お湯はさらっとしており、肌が喜んでいるように感じる。塩の香りがほんのりして至福の時間を過ごしていると、ふと、視線を感じた。恐る恐る顔を上げると、不可能を可能にするとされる宝珠観音が。高さ約1.8メートル。もう一つの風呂にも似た壁画が描かれている。安田社長は「湯治と言われる温泉の持つ力を知ってもらいたい思いが、観音様には込められている」と話す。観音様はずっと風呂に入る客を優しく見守っている。
◆野菜にこだわり
旅館に欠かせない食事にも旅館の思いが表れている。「旅館に訪れた時よりもより健康になって帰ってほしい」と若女将(おかみ)山本志穂さん(35)。食事は地元の野菜を中心に、山の幸が豊富に並ぶ。「田舎の味を目指している」と若女将。聞くと旅館には料理長は置いておらず、若女将がレシピを考え、地元の女性や女将ら数人で準備している。まさに母の味なのだ。
野菜のほとんどは自家栽培の有機野菜にこだわる。若女将に連れられ、喜多方市内の畑も訪れた。市内5カ所に畑を持つ。米ぬかともみ殻を使った肥料は若女将の独学。野菜を収穫しながら「ふぞろいでもおいしい野菜を提供し、利用者に心や体もスッキリして帰ってほしい」と汗を拭った。
安田社長と若女将はきょうだい。きょうだいだから話せることもあるという。2人の思いは「新しいふじや、熱塩温泉を作って知ってもらうこと。喜多方にはもっと人を呼び込めるはず」。2人の熱意が新風を巻き起こしそうだ。
【メモ】ホテルふじや=喜多方市熱塩加納町熱塩字熱塩甲807。日帰り入浴も可。
≫≫≫ ほっとひと息・湯のまちの愉しみ方 ≪≪≪
【日中線の思い出伝える】熱塩温泉近くには廃線となった旧国鉄日中線を紹介する日中線記念館がある。旧熱塩駅の駅舎を利用し、当時の様子を伝えている。日中線は1938(昭和13)年に開通した喜多方駅―旧熱塩駅間の11.6キロ。山形県米沢市まで結ぶ計画だったが、車の普及などで84年に廃線。87年には駅舎が記念館に改修された。同館には、日中線で使われていた備品や駅員が使う乗車券箱などを展示。当時走っていた客車を見学できるほか、桜の木もあり、春には人気の撮影スポットになっている。観覧料は無料。時間は午前9時~午後4時、休館日は毎週月曜日と12月29日~1月3日。
〔写真〕旧日中線の駅舎をそのまま利用している記念館
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