【 新地町・鹿狼の湯 】 海も山も...心ゆくまで 蔵王石くりぬく風呂

 
蔵王石をくりぬいた露天風呂からは、新地の街並みや太平洋が一望にできる

 木々を渡る森の風を感じながらゆるりと湯につかる。色づいた山々とともに広がる眺望は、遠く太平洋の海。宮城県との県境にある新地町の「鹿狼(かろう)の湯」は、自然の中で四季の移ろいを感じながら入浴を楽しめる名所だ。

 JR常磐線新地駅から南西に車で約15分、常磐道新地インターチェンジ(IC)からなら車で約5分。坂を上り鹿狼山の登山口にほど近い山麓の高台に向かうと施設が見えてくる。

 人気を集めるのは何といっても露天風呂。男女それぞれで入浴できる日は変わるが、太平洋や松川浦を一望できる海側の湯と、鹿狼山をメインに望む山側の湯がある。新地の街並みに加え、天気が良く空気が澄んだ冬は宮城県の金華山や遠く石巻市まで眺望は180度以上に広がっている。

 蔵王山の「蔵王石」をくりぬいた石風呂は4人ほどでいっぱいになる大きさだが、雄大な景色を独り占めしているような気分にさせられる。温度はそれほど高くなく、心ゆくまで景観を楽しむにはちょうど良い熱さに感じられた。

 湯は鹿狼山の湧き水を引き加温した鉱泉を使用している。じっくりと体が温まるとして神経痛などに効くと人気だ。地元では、山々を流れることで養分が浸透し効能につながっているといわれている。同じ湯はゆったりと入れる内風呂にも使われており、サウナも備えている。

 鹿狼の湯の開業は明治初期。交通の便が悪い当時、農業に従事する近隣の高齢者たちが農閑期に湯を楽しむ施設として湧き水を利用したという。元々は現在の位置から300メートルほど下の山裾にあったが、利便性や施設拡張の関係で2008(平成20)年に牛の放牧場やバーベキュー施設として使用していた現在の場所に移動した。

 施設代表で5代目の加藤源治さん(70)は「山も見えるし海も見える。新地では一番の眺望の湯どころ」と胸を張る。宿泊場所として景色は部屋からも楽しめる。

 鹿狼山の登山客も多く訪れ、登山ブームにより若い世代の客も増えている。紅葉が美しい秋は特に駐車場はいっぱいになる。登山で疲れた体を癒やす場所として長年愛されている。

 ◆十割そばが人気

 施設内の食事処どんぐりでは、地元の農家が栽培するそば粉を使用した十割そばや地元食材を利用した料理が楽しめる。そばは併設する加工場で保存している。ひきたて、打ちたてのそばを目当てで訪れる客も少なくないといい、例年11月に開く新そば祭りには3日間で1000人もの人が訪れる。

 赤みや黄色がかった木々を眺めながら湯につかっていると、思わず時間を忘れそうになる。自然の中にある場所だからこそ、日々の騒がしさを忘れ、季節が変わるごとに訪れてほしい。

 【メモ】鹿狼の湯=新地町杉目字飯樋50。日帰り入浴は600円。宿泊や宴会も受け付ける。

新地町・鹿狼の湯

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 【元日「日本一早い」山開き】鹿狼の湯の駐車場は、鹿狼山(標高430メートル)の登山口の一つに隣接している。新地町と宮城県丸森町の境に位置する同山は四季を通じて山歩きを楽しむことができる町のシンボル。春のスミレ、夏のイチヤクソウ、秋の紅葉など彩りを変える自然も人気を支える。新地町内には五つの登山コースを整備。所要時間は片道40~70分程度で、体力に応じて選ぶことができる。頂上から太平洋の大海原が望めるほか、蔵王から吾妻山まで見渡せる。毎年1月1日には「日本一早い」と銘打った山開きが行われ、毎年多くの登山者が山頂で初日の出を迎える。

新地町・鹿狼の湯

〔写真〕体力に合わせ登山コースを選べる鹿狼山