【 二本松市・名目津温泉 】 熱い思いで名湯を復活 木々に溶け込む

 
「日帰りの秘湯」で知られる名目津温泉。平日でも顔なじみの常連客が訪れる

 二本松市から浪江町へと向かう国道459号から横道に少し入った所にある「名目津温泉」。阿武隈山地の名峰・日山(ひやま)の麓を流れる口太川の渓流を見下ろす地域に、こぢんまりとした施設が立つ。周囲の木々に溶け込むような静かなたたずまいだ。

 かつて、「名目津の湯」として存在し、その湯は古くから皮膚病に効能があることで知られた。旅館が建ち、湯治場としてにぎわった時期もあったが、昭和50年代に旅館が廃業するとともに廃れてしまった。地元住民だけが知る秘湯となり、外からは源泉の効能を知る人たちが湧水を求めてやってくるだけになっていた。二本松市の地域振興策として整備され、2010(平成22)年7月にオープン。今では地域住民を中心に市内外から多くの人が集う日帰り温泉として、その名が知られてきている。

 指定管理者として名目津温泉管理運営組合が運営する。組合長の渡辺周一さん(72)は「地域で年々過疎化が進み、人口の減少、高齢者の割合が市の水準よりも高かった」と振り返る。地域振興の起爆剤として温泉を復活させることは地域住民らの悲願だった。

 ◆地域の社交場に

 泉質はラドンを含む単純弱放射能冷鉱泉。痛風や慢性皮膚病、高血圧に効能があるとされる。「あせものかゆみが治まったと通ってくる人もいる」と渡辺さんは話す。冷鉱泉のため加温する必要があるが、「源泉掛け流し」の魅力は何物にも代え難い。湯の温度は42度ほど。ゆっくりとつかっていると、体の芯から温まってくる。「湯冷めしない。あるリピーターは福島まで車で帰る間、背中がぽかぽかしていると話していた」と渡辺さんは目を細めた。

 現在、利用者は1日平均70人ほど。地域住民が中心だが、境を接する田村市や川俣町の地域からも常連が通ってくる。正月やお盆、5月の連休ともなると、湯に入るのに順番待ちとなるほどの大にぎわいだ。「200~300人の入り。帰省した人が家族と一緒にやってくる」と渡辺さん。休憩室は広々とした和室。地元の住民ともなれば大半が顔見知り。自然と会話が弾む。近況の報告や思い出話に花が咲く。

 建物を取り囲む自然も魅力的だ。渓流の流れは心地よい音を周囲に響かせる。川を覆うように枝を茂らす木々は、春の芽吹きの時期ともなればみずみずしい緑が目に突き刺さるような輝きを見せ、秋は紅葉やモミの木がカラフルに色づく。

 「大きく宣伝しているわけではない。口コミで利用者が広がっている。桜の季節、観光客の利用はざっと3割かな。あと少し増えてもいいと思うよ」と渡辺さんは笑った。

 阿武隈山系の自然を堪能しながらのドライブ途中にでもふらりと立ち寄り、湯につかれば身も心も癒やされること間違いなしだ。

 【メモ】名目津温泉=二本松市茂原字湯ノ作35。休憩室への持ち込みが可能。メンテナンス休館以外は原則無休。

二本松市・名目津温泉

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 【推定樹齢1000年の大杉】二本松市杉沢にある大杉で、杉の単木としては国内でも最大級とされる。国指定天然記念物で、大きく張り出した枝が雄大な姿を形作っている。高さは約50メートル、幹周は約13メートルある。推定樹齢は約1000年といわれている。長い年月、風雪に耐えてきたとは全く感じさせないほど、今でも樹勢がいい。樹木の王者ともいえるような風格が魅力だ。1643(寛永20)年、二本松藩主丹羽光重がこの地を訪れた際に杉の見事さに感嘆、「杉沢の大杉」と名付けたと伝えられている。

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〔写真〕推定樹齢約1000年といわれる国指定天然記念物の「杉沢の大杉」