【 西郷村・元湯甲子温泉 】 大岩風呂へ時間旅行 体の芯まで温まる
白河市から雪もちらつく師走に西郷村の国道289号(甲子(かし)峠)を車で約40分。安心坂トンネルを抜けて左折し、坂を下っていくと「元湯甲子温泉 旅館 大黒屋」にたどり着く。阿武隈仙境渓谷の大岩風呂に太古をしのぶ山のいで湯―。"那須おろし"の風で冷え切った体を芯から温めたいとお邪魔した。
甲子温泉の歴史は古く、多くの言い伝えが残っている。1384(至徳元)年、諸国修行の旅に出ていた和尚が白河の関を通り掛かった時、めでたい雲に誘われ、西山に分け入ると霊地があった。そこに小屋を建て、修繕に励んでいたある夜、一人の老翁が「山峡に霊泉あり。病のある者に教え、救われよ」と告げて消え去り、和尚は聞いた場所に行くと湯が湧き上がっているのを発見した―という。甲子温泉は、湧湯が発見された至徳元年が甲子(きのえね)に当たることが由来となっている。
1636(寛永13)年に時の武士が温泉として開発し、白河城主・丹羽氏が湯守に任じられたことで温泉地として確立していく。標高約930メートルにある大黒屋は西郷の歴史や文化を伝える旅館の一つだ。甲子トンネル開通に合わせ、2009(平成21)年に建家などの改装を行った大黒屋。新しくも懐かしい温泉宿ののれんをくぐった。
◆150年変わらぬ姿
フロントを通り、目に飛び込んできたのはガラス越しから望む雪化粧した山あい。思わずため息が漏れた。白河藩主の松平定信公が愛し、別邸を建てた場所でもある。150年前から変わらないという「大岩風呂」へと向かった。靴を履き替え、専用の通路を下っていく。長い階段、阿武隈川に架かる橋を渡り、白い息を弾ませて木造の小屋の扉を開けると、タイムスリップしたかのような空間が広がっていた。
湯船は横約15メートル、縦約5メートル、深さは最大1.2メートル。温度は39~40度と少しぬるめだ。むき出しの岩から流れ出る源泉と湯船の岩盤から源泉が湧き出る。透明な湯は単純温泉の泉質で、体を柔らかく包み込む。体の芯まで温める効果があり「子宝の湯」とも呼ばれる。人の手が加えられることなく、自然の神秘が生み出した温泉だ。通常混浴(時間帯で変更)だが、今回は記者一人の利用だったため、時間を忘れてぜいたくに湯を楽しんだ。
大黒屋の草野正人社長(43)は「地元の人が満喫するのはもちろん、西郷を観光していただく際の拠点になりたい」と話す。女性限定の日などを設定し、独自のプランを提案。飲料水などは近くの沢の水をろ過して使用し、地元の食材などを使った料理にもこだわり"オンリーワン"を目指している。会津地方へ抜ける交通の要所。そこで大自然に囲まれながら、湯気の中を行き交った祖先たちのくつろぐ姿を想像した。
【メモ】元湯甲子温泉 旅館 大黒屋=西郷村真船字寺平1。男女別の内風呂、露天風呂あり。
≫≫≫ ほっとひと息・湯のまちの愉しみ方 ≪≪≪
【人気の特産品が大集合】国道289号沿いに6月オープンした農産物直売所「まるごと西郷館」。新鮮な地元野菜をはじめ、特産品約200点以上が並んでいる。おすすめは「ポテトまんじゅう」(税込み160円)。高原牛乳やチーズなどを練り合わせたポテト餡(あん)を皮に包んで蒸し上げた一品。西郷村産低温殺菌牛乳のソフトクリームも火照った体を癒やすには最適。名産ルバーブジャムや、しどみパイなどの商品も人気を集めている。兼松敬史館長(40)は「地域経済の発展を念頭に名産の掘り起こしを進め、笑顔あふれる施設にしたい」と意気込みを語った。
〔写真〕自慢の特産物をPRする兼松館長
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