【 いわき市・中根の湯 】 短気者も満足の極楽 井戸騒動が発端の湯
いわき市遠野町の山間部を流れる清流・入遠野川。そのほとりに間もなく創業100年を迎える旅館「中根の湯」がたたずむ。玄関を入ると、女将(おかみ)の平子道子さん(63)が「いらっしゃいませ」と笑顔で出迎えてくれた。
中根の湯の創業は1920(大正9)年。創業当時は、現在の入遠野川沿いではなく、山の中にあった。時はさかのぼり大正の初めごろ、平子家の井戸に人が危うく落ちそうになる騒ぎがあった。平子家の2代目で短気者だった幸太郎さんが物騒な井戸は埋めてしまおうと、代わりとなる新たな井戸を掘り始めた。さすがは短気者、岩盤に突き当たっても構わず掘り続けると、中根の湯の源泉となる水が湧き出てきたという。
その井戸の水位は日照りや長雨でも変わることなく、風呂に使えば体がよく温まる。初代の留蔵さんの頑固な神経痛もぴたりと止まったという。その後の水質分析で、ラジウムとアルカリ成分が含まれていることが判明。「平松館」の名で湯治宿として親しまれた。1973(昭和48)年、現在の場所への移転に伴い、宿の名を愛称だった「中根の湯」に変えた。
◆通年でアユ提供
泉質は単純硫黄泉で、神経痛やリウマチ、胃腸病、腰痛、婦人病などに効能があるとされる。また、弱アルカリ性で美肌効果も期待できるという。源泉の温度は10度ほどで、小さな子どもでも入りやすいよう、熱すぎず、ぬるすぎない42度ほどに温めて提供している。
さらに特徴的なのは、体を芯まで温める力。若旦那の善一さん(35)は「温度は決して熱くないが、湯冷めしないと評判。『体がぽっぽして駄目だ』と言って風呂を上がるお客さまもいます」と語る。
温泉に入ると、確かに入りやすい温度。大きな窓から眼下に流れる入遠野川を眺め、ゆっくりと温泉につかる。川沿いには桜の木が並び、春には満開の花と清流を楽しめる。そうこうしてくるうち、ものの数分で体が温まってきた。温泉から上がっても湯冷めせず、しばらくは体が軽くなった感じが続いた。
中根の湯は、アユ料理にも力を入れている。入遠野川はアユ釣りの人気スポットの一つ。「アユを食べたい」という利用者の声に応え、アユ料理を通年で提供している。コース料理では、アユの塩焼きや田楽、しゃぶしゃぶなどを堪能できる。土鍋で炊き上げるアユご飯は、ふたを開けると若草のような青々しいアユの香りが広がり、「子どもさんも喜んで食べてくれる」と道子さんは話す。信州(長野県)産のそば粉にこだわった予約制の手打ちそばも評判だ。
記者は釣りが趣味なので、釣りの後に温泉に入れたら幸せだろうなと願望が膨らむ。でも渓流釣り解禁の春はまだ少し先。とても家庭的な雰囲気でくつろげる中根の湯に入って、まずは冬を乗り切ることとしようか。
【メモ】中根の湯=いわき市遠野町大平字下中根156の4。日帰り入浴は500円(税込み)、時間は午前9時~午後9時。
≫≫≫ ほっとひと息・湯のまちの愉しみ方 ≪≪≪
【無添加の優しい味わい】いわき市遠野町の芝崎菓子店が作る「遠野まんじゅう」(1個・税込み90円)は、無添加の優しい味わいで地域に長く愛されている。遠野まんじゅうは、つなぎに米粉と山芋を使った柔らかくしっとりとした皮、皮むき小豆を使い甘さ控えめに仕上げたこしあんが特徴。2008(平成20)年の「第25回全国菓子大博覧会」で金賞を受賞した。ゆずまんじゅう(1個・税込み90円)やパンプキンまんじゅう(同110円)も人気。上遠野店には、落雁(らくがん)の型も展示されている。
〔写真〕人気の「遠野まんじゅう」と展示されている落雁の型
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