【 郡山市・源田温泉 】 『らしくなさ』楽しむ...おしゃれな「洋館」

郡山市中心部から同市湖南町方面へ車を走らせること約30分。途中で脇道に入って林道を上ると、赤い屋根と白い壁のおしゃれな建物が現れる。どう見ても洋館というたたずまいだが、実は創業120年以上の歴史を持つ温泉旅館「源田温泉郷 forestバン源田」だ。自分が温泉旅館に来ていることをふと忘れてしまうような、一風変わったお宿を訪ねた。
ロビーに入ると、フローリングの床や大きな窓で明るく開放感のある空間が広がる。思わず館主の熊田広治さん(59)に「温泉旅館じゃないみたいですね」と率直な感想を伝えると、「『旅館らしくない』は褒め言葉。これまでの旅館のイメージを覆したいんです」と話してくれた。
きっかけは東日本大震災。当時「源田温泉 熊田屋」として営業していたが、4棟のうち3棟が大規模半壊、または半壊。苦境に立ち、「ほかと同じことをしていてはだめだ」と大幅なリニューアルを決めた。洋風建物を新築し、それに合わせて名称や看板、客室、食事なども変更。2014(平成26)年12月にリニューアルオープンした。
客室は、家具やベッドカバーなどの小物にこだわったモダンな洋室を4部屋用意。和食料理人の広治さんと、専門学校で洋食を学んだ若旦那の隆治さん(34)によるコース料理は、地元の名産のコイのあらいのカルパッチョや自家製グリーンカレーなど和洋折衷の「らしくない」メニューを盛り込んだ。
ちなみに「バン」はフランス語で温泉のこと。当初は、洋風の「バン源田」の看板を見てパン屋だと勘違いして訪れる人もいたとか。
◆変わらないもの
高旗山のふもとに位置する源田温泉は、戦いで傷ついた源氏の兵士が湧き水を浴びて完治したことが名の由来だと伝えられている。泉質はカルシウム・ナトリウム硫酸塩泉で、効能は慢性皮膚病や関節炎など。温熱効果が高く婦人病にも効果があるといい、「授かりの湯」としても知られている。不妊に悩む夫婦が県外からも訪れるという。また、水素イオン指数(pH)は9.0と、県内でもトップクラスのアルカリ性で、皮脂や汚れなどを落としてくれるため美肌効果があるとされ、何とも女性にうれしい温泉だ。
清潔感のある浴室に足を踏み入れ、無色透明のさらりとしたお湯に肩までつかると、心身の疲れがじんわり溶け出していくようだ。入ってすぐに、自分の肌がキュッキュッという手触りに変化しているのを実感した。冷え性の記者でも、15分ほどの入浴で体の中から手先まで、しっかりと温まった。
同館では、リニューアル後に若い世代の利用客が増えたという。広治さんは「うちにしかないものを」と、試行錯誤を続ける。ただ名前や外観が変わっても、120年守られてきた自慢のお湯とおもてなしの心は変わらない。
【メモ】forestバン源田=郡山市逢瀬町多田野字源田5。日帰り入浴は大人600円、小学生以下300円。
≫≫≫ ほっとひと息・湯のまちの愉しみ方 ≪≪≪
【素材にこだわったスイーツ】源田温泉から車で約5分。「四季彩菓子 アトリエ さとうとバニラと」では、大きなログハウスの建物で、素材にこだわったケーキやジェラート、焼き菓子が楽しめる。郡山市のホテルハマツでシェフを務めていた松崎盛一さんが独立して開店。卵は、養鶏所の協力で飼料などを試行錯誤しながら特別生産したものを使用している。しっとりとしたスポンジのショートケーキや、素材の甘さを生かしたプリン、無添加にこだわった種類豊富なジェラート、フランスのシャトーから直接仕入れたコニャックを染み込ませたブランデーケーキなどが並び、人気を集めている。営業時間は午前10時~午後5時(4~10月は同6時)。火曜定休。
〔写真〕素材にこだわったショートケーキとプリン、コーヒー
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