【 会津若松市・東山温泉(中) 】 心受け継ぐ老舗の湯「千人風呂」

 
渓谷の新緑を映す源泉掛け流しの露天風呂

 城下を彩る桜の装いも一変。日差しを受け、青々とした緑に囲まれた中に、せわしない日常を忘れさせてくれる温泉宿がたたずむ。会津東山温泉「原瀧」。創業1924(大正13)年の老舗の湯を味わおうと一歩足を踏み入れた。

 一面緑のパノラマが出迎えてくれた。右手側が全面ガラス張りとなっており「自慢の国有林を目の前で楽しめますよ」と加藤勝美営業企画推進室長。この時期は木々が鮮やかな緑に色づき、まずは視覚で癒やされる。東山温泉でも数少ない、源泉を保有している宿で、加藤室長は「大地の恵みと自然の恵みを両方味わえます」と魅力を語る。

 東山温泉は湯野浜温泉、上山温泉とともに奥羽三楽郷に数えられる名湯。地元の人たちが手料理を持ち寄って温泉を楽しむ社交場としての役目のほか、湯治目的の健康センターとしての役割も担ってきた。さまざまな目的で人が集まり、原瀧の大浴場「千人風呂」は、多くの人が湯を楽しんだ歴史に由来する名称だ。

 泉質は硫酸塩泉で水素イオン指数(pH)は7.8の弱アルカリ性。肌に優しいさらさらとした湯触りで「お肌がすべすべになりますよ」と話す加藤室長の肌がそれを物語る。慢性婦人病、皮膚炎などに効果があり、全身に優しい温泉は人気を集め、入浴会員として毎日温泉を楽しむ人もいるという。東山温泉に滞在して漫画を執筆するなど関わりを持っていた「漫画の神様」手塚治虫さん(1928~89年)も入浴したといい、湯につかると自然とありがたい気持ちが湧き上がってきた。

 温泉を独り占めできる貸し切り露天風呂も魅力の一つ。信楽焼の湯船がある「月見の湯」や、浴場に畳を使用した「雪見の湯」などの四つの風呂があり、月見の湯以外は全て高級銘木の「青森ヒバ」を使用している。

 加藤室長から「自慢は外にも」と聞いたので探してみると、白い壁に囲まれた場所を発見。のれんをくぐると、そこには、野外に座敷を造り料理を提供する「川どこ」が広がっていた。美しい川の流れに沿って造られた座敷は「水辺のダイニング」とも称される。湯川のせせらぎや野鳥のさえずりを聞きながら食事や足湯を楽しむことができる空間は、夢の中にいる気持ち。夜は別な顔を見せ、暗闇と明かり、静かな川音が幽玄な雰囲気を作り出す。

 文化の違い尊重

 最近は外国人旅行者の宿泊が多いと話す加藤室長。海外ではファッションの一つとなっているタトゥーは、日本では「入れ墨」と同様に見られ、大浴場の入浴を断る旅館も少なくない。そんな中、原瀧ではタトゥーを文化の一つとして「入れ墨」とは区別し、入浴可としている。「多くの人に湯につかる日本の温泉の魅力を伝えたい」という思いからだ。日本文化の良さを伝え、異文化にも寄り添う「おもてなし」の気持ちが、長年多くの人に愛される理由なのだろうと納得した。

【メモ】原瀧=会津若松市東山町湯本235。日帰り入浴は税別で大浴場が1000円(3歳~小学生は半額)。貸し切り露天風呂もある(要予約)。

会津若松市・東山温泉(中)

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 【江戸初期から続く老舗茶屋】東山温泉の入り口手前に、佐藤竜太郎さん(62)が営む「お秀茶屋」がある。江戸時代初期の延宝年間創業で、手塚治虫さんも訪れた老舗。人気メニューは「田楽」(税込み800円)。炭でじっくり焼き上げた厚揚げ、餅、身欠きニシン、こんにゃくが一皿に並び、一口ほお張ると甘めのみそが口いっぱいに広がる。秋にはこんにゃくの代わりに里芋が登場するという。店内では納豆餅やくるみ餅、そばなども提供している。営業時間は午前10時ごろから。材料がなくなり次第終了する。不定休のため確認が必要。

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〔写真〕甘めのみそがたまらない人気の田楽