【 いわき市・いわきゆったり館 】 健康支える地域の宝「湯本温泉」

新緑が鮮やかな緑色に深まる季節。木々が風になびき、硫黄の香りが立ち込めてきた。露天風呂につかると、しっとりとした湯が全身を包み、体の芯から温めてくれる。癒やしのひとときにいざなう空間が「いわきゆったり館」にある。
いわき湯本温泉のなかでも、源泉から最も近くに立地し、常に新鮮な温泉を引く。全国でも数少ない温泉を活用し健康づくりを行う「温泉利用型健康増進施設」として国の認可を受け、先祖代々守られてきた地域の宝「湯本温泉」が、来館者の健康を支えている。
「温泉という大切な資源を生かし、健康づくりができる場所として誕生した」。ゆったり館を運営する市社会福祉施設事業団の理事長・高沢祐三さん(60)が設立の背景を教えてくれた。1990年代から国内で高齢化が進み、要介護人口の急増が懸念された。そこで観光だけでなく「健康づくりの湯本温泉」として健康促進のために市が98年4月に設立した。
温泉街から離れ、JR常磐線を挟んで東側の山間にぽつんとたたずむ。ほのかな硫黄の香りが漂う館内に入ると、仲の良さそうな年配者グループが、お風呂セットを手に談笑していた。
湯本温泉は水素イオン指数(pH)8.1の弱アルカリ性泉で、肌の新陳代謝を良くし、美白効果が期待できる。館内の温泉施設「クアハウス」には、神経痛などに効果がある圧注湯の内湯や露天風呂など三つの浴槽を完備。手すりや音声案内などもあり、細かな配慮に安心感を覚えた。
水着着て歩行浴
館内を歩いていると、水着を着て入浴する来館者の姿に驚いた。温泉と運動を組み合わせ、不眠症や神経疲労に効果がある歩行浴のほか、肩こりや腰痛の緩和に効く気泡浴などもそろう。また、市内の病院と提携し「温泉療養」も行う。
東日本大震災では甚大な被害は免れ、発災後2週間で再開できた。早期の再開は、不安な毎日を過ごす市民の支えになった。当時を思い起こし入浴すると、この空間に安堵(あんど)し湯につかる人たちが浮かんだ。
震災後の風評被害が厳しく、県外利用者や宿泊者が激減している。高沢さんは「クアハウスは震災前の状況に戻ったが、宿泊の稼働率はまだ回復していない。県外の常連も離れてしまった」と寂しげに話した。
良い兆しもある。「この温泉がいいんだ」と首都圏から毎月宿泊して風呂を楽しむ年配の男性がいる。高沢さんは「個人差はあるが、車いすで来たおじいさんが温泉に入ってから歩けるようになった」と喜びを語る。
ゆったり館は、来館者の健康づくりを進めながら、湯本温泉街を盛り上げていく役目も担う。館内には、湯から上がっておしゃべりを楽しむ高齢者の姿があった。「今日はどんな一日を過ごしたのかな」。自然と笑みがこぼれる至福のひとときだった。
【メモ】いわきゆったり館=いわき市常磐湯本町上浅貝22の1。日帰り入浴は高齢者、障害者、小学生が720円、大人1440円(大人は午後5時以降1020円)。
≫≫≫ ほっとひと息・湯のまちの愉しみ方 ≪≪≪
【温泉神社あやかったパン】ゆったり館から車で約5分のところにある「all about bakery(オールアバウトベーカリー)」。湯本の温泉神社にあやかった「温泉ジンジャーブレッド」が人気だ。小野寺智徳さん(35)と香里さん(32)の夫婦が営む。名物観光グルメとして開発した。湯本温泉の源泉を使っており、温泉水効果でふんわりとした弾力が特徴。ほんのり香るショウガ風味も楽しむことができる。店主の小野寺さんおすすめの食べ方は、ゆずぽんに付けるほか、きんぴらごぼうなどでサンドイッチにする。一風変わった和風のパンを味わうことができる。1個400円(税込み)。時間は午前6時~午後6時。月、火曜日定休。
〔写真〕「温泉水の効果でふんわり弾力があるのが魅力」と話す小野寺さん
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