【 福島市・穴原温泉 】 手間暇かけ守る名湯 山肌迫る片倉山の絶壁

 
絶景を楽しむこともできる自家源泉の露天風呂

 ここは福島市の北部。本格的な夏を迎え、深い緑に包まれる奥飯坂・穴原温泉。深い谷の間を縫うように流れる摺上川、その清流の音が聞こえてくる。江戸時代の創業から180年を迎えようとする宿が見えてきた。日常の喧騒(けんそう)を一気に忘れさせてくれるような景色だ。

 昔から湯治場として栄えていた穴原温泉。創業当時から地元の人たちに古湯として親しまれ、多くの人が長湯治で体を休めていた場所だった。今回訪れた「吉川屋」が誕生したのは1841(天保12)年。豪農だった畠栄吉が半農半商の形で湯治宿を開いたと伝わる。

 当時の人たちもこの景色を楽しんだのだろうか。まず玄関を入り、引きつけられるのがロビーから見える絶壁の片倉山。清流の流れを挟み、向こう岸の山肌が迫ってくるようだ。

 福島盆地の活断層の活動に伴い、500万~1000万年前に形成されたとされる地層。川の流れで削られた堆積岩層の地層からは、植物の化石が出ることもあるという。

 自慢の自家源泉

 この絶景を楽しみながら入る温泉が魅力だ。湯治場として親しまれていた時からリウマチや皮膚病に効能があるとして知られていた。館内には露天風呂をはじめ、大浴場、貸し切り風呂など。多彩な湯船が出迎えてくれる。

 時間を忘れ、ゆったりと温泉に身を委ねてみる。肌にじんわりと染みるように感じる柔らかなお湯は弱アルカリ性の単純泉。温泉から上がっても、汗がなかなか引かない。その余韻がなんともたまらない。

 宿の自慢はなんと言っても自家源泉。スタッフ数人が交代しながら敷地内から湧き出す源泉を代々守っている。源泉は地下30メートルにある。スタッフは朝方、らせん階段を上り下りしながら温泉量や温度をこまめにチェックしている。

 源泉の温度は63度あり、汗をにじませながら取り組む大事な作業だ。日々繰り返されるスタッフの苦労に支えられた温泉。女将(おかみ)の畠ひで子さん(70)は「(客に)温泉をほめてもらっているんですよ」と笑顔を見せてくれた。

 リピーターが多く訪れる宿でもある。1年に何度も訪れる人もいて、遠くは関東圏から来館する人もいる。還暦のお祝いなど人生の節目に予約し、大事な人と過ごす人も多い。

 温泉以外にファンを魅了するのが料理だ。関西で腕を磨いた料理長が地元の食材にこだわった創作料理で宿泊者を楽しませてくれる。見た目にも心配りがされており、「見て味わう」料理も自慢の一つ。

 長い歴史の中では、上皇ご夫妻が天皇、皇后時代に、天皇、皇后両陛下も皇太子、皇太子妃時代に宿泊した。畠さんは「お客さまに『ただいま』と言ってもらい、帰って来てもらえるような宿でありたい」と話す。伝統の宿に息づくおもてなしの心を感じるひとときだった。

 【メモ】吉川屋=福島市飯坂町湯野字新湯6。日帰り入浴(午前11時30分~午後3時)は、大人千円、小学生700円、3歳以上500円、3歳未満無料。

福島市・穴原温泉

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 【季節の果物...取って味わえる】吉川屋から車で10分ほど。国道13号沿いに人気の観光果樹園「まるせい果樹園」がある。サクランボ、モモ、ナシ、ブドウ、リンゴが栽培されており、収穫体験した後、味わうこともできる。園内には農家カフェ「森のガーデン」が設けられており、果物をふんだんに使った「まるせいパフェ」が人気となっている。直売所では手作りのジャムやドライフルーツも販売している。代表の佐藤清一さん(49)は「モモがおいしくなってきた。ぜひ味わってほしい」と来園を呼び掛けている時間は直売所が午前8時~午後5時、収穫体験は午前9時~午後4時。

福島市・穴原温泉

〔写真〕たわわに実ったモモを収穫する佐藤さん