【 福島市・高湯温泉(上) 】 昔ながらの風情...『ありのままの湯』

 
源泉掛け流しの白いお湯がたっぷりと満たされた野天岩風呂。硫黄の香りに包まれ、川のせせらぎの音が心地よく流れる

 「ありのままの湯」

 東北屈指の薬湯としてその名を知られる高湯温泉。福島市内には土湯や飯坂といった名だたる温泉地がある中、江戸時代の開湯から約400年続く高湯温泉の魅力をこの地の人はこう表現する。

 地区内にある入浴・宿泊施設全てで、自然に湧き出た源泉に水を加えたり温度調節することはせず、源泉掛け流しのまま提供している。自然の恵みに一切手を加えないことがこだわりだ。

 明治元年創業と最も歴史が古い温泉宿「旅館 玉子湯」は、福島市の中心部から車で約30分。建物に入ると窓越しに吾妻山の緑のパノラマが広がる。1階かと思いきやロビーは4階。眼下には茅葺(かやぶ)き屋根の小屋があり、昔ながらの湯治場の面影を残す。

 露天風呂のある1階までエレベーターで降りると、外庭へと続く出口で思わぬ歓迎を受けた。目の前に2頭のクマ! 思わず声を上げそうになったが、よく見ると剥製だった。動揺する自分を落ち着かせようとゆっくり呼吸すると、ゆで卵のようなにおいが漂ってきた。これぞまさに「玉子湯」というにおいだ。硫黄泉の独特な湯のにおいは子どもの頃はあまり得意ではなかった。しかし、大人になった今はこの温泉らしいにおいに、たまらなくひかれてしまう。

 最初に入ったのは「野天岩風呂 天渓の湯」。露天の乳白色の湯は外から眺めると青みを帯びて見える。少し熱めの湯で慣れるのに時間がかかったが、肩までつかってホッと一息。湯船の中で温泉成分の湯の花が舞う様子も気分を盛り上げてくれる。

 ◆もう一つの由来

 ここで玉子湯のもう一つの名前の由来を思い出した。「玉子のように肌がつるつるになる」。アンチエイジングの効果もあるといわれるその恩恵にあずかろうと、仕事の疲れが蓄積した30代の顔を何度もお湯にくぐらせた。

 露天風呂を堪能した後は茅葺き屋根の湯小屋へ。戸を開けると、浴室には脱衣所と湯船の一間のみ。湯気の向こうに先人たちのくつろぐ姿が見えるような気がする。

 「昔は一日中、お客さまが出入りしていたんですよ」。女将(おかみ)の後藤郁子さんによると、かつては24時間いつでも温泉を利用することができた。そのため、朝湯を楽しむ人や仕事終わりに疲れを癒やす人がいて、いつも誰かがこの湯につかっていたという。

 「皆さんが褒めてくれるのは『自然』と『お湯の良さ』。それを守り続けたい」と女将。館内には創業当時の玉子湯の写真や宿帳など資料が展示されていて、伝統を大切に守ろうとする姿が垣間見える。

 平日の昼すぎだが、高齢の男性がタオル片手にやって来たかと思えば、埼玉から来たというリピーターの姿も。時がたち人が移り変わっても変わらず湧き出る湯が人を癒やし続けている。

 【メモ】旅館 玉子湯=福島市町庭坂字高湯7。日帰り入浴は午前10時30分~午後3時。税込みで大人800円、小学生500円。

福島市・高湯温泉

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 【ご朱印帳あると楽しさアップ】高湯温泉では神社や寺院巡りのように「ご朱印帳」を持って温泉巡りが楽しめる。施設ごとにデザインが異なるご朱印で、温泉ファンの注目を集めている。共同浴場あったか湯か参加施設で販売している「宿泊湯めぐり御朱印帳」(1800円)を購入し、参加施設に宿泊すると、1泊につきご朱印帳にスタンプを一つ押してもらえる。スタンプ5個で手ぬぐい、10個で湯おけ、15個ではんてんと、スタンプを集めた数に応じて高湯温泉の非売品オリジナルグッズをプレゼントする。有効期限は無期限でリピーターの獲得に一役買っている。問い合わせは同温泉観光協会・同温泉旅館協同組合へ。

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〔写真〕ご朱印集めでもらえるはんてんや手ぬぐい