【 福島市・高湯温泉(中) 】 人気の秘密...心解き放つ『青の世界』

 
山の斜面を利用した野趣あふれる大露天風呂。源泉の発見者気分を味わえる

 雄大な吾妻山に抱かれた東北屈指の薬湯・高湯温泉(福島市)の「安達屋旅館」に足を運んだ。全国の温泉ファンから人気の「大露天風呂」を味わうのが目的だ。福島市中心部から車で約30分。カーブが連続する山道を抜け、標高約750メートルに位置する温泉郷にたどり着いた。温泉の香り漂う中、高揚した気持ちで敷居をまたいだ。

 「ようこそいらっしゃいました」と元気よく出迎えてくれたのは安達屋旅館の18代目菅野信幸専務(27)。りりしい顔つきでいかにもスポーツマンという容姿。聞けば幼少期から野球一筋。大学卒業後、日本有数のリゾート運営会社で修業し、家業を継ぐため7月に帰郷したばかり。「大露天風呂を楽しんでください」。いよいよ人気の秘密が分かると期待が膨らむ。

 「ぜいたくだなぁ~」。開放的な大露天風呂に面食らい、思わず声が出た。幅30メートルと細長い形の風呂に、洞窟風呂や打たせ湯、寝湯と趣向を凝らした仕掛けもある。お湯は白濁というよりむしろ青白く、森の清涼感も相まって幻想的な雰囲気すら漂ってくる。

 泉質は含石膏(せっこう)明ばん硫化水素泉。水素イオン指数(pH)は約2.7。温泉成分の高い硫黄泉で、効能も多彩なので「美人の湯」として知られる。源泉掛け流しなので温泉好きにはもうたまらない。

 ◆先祖の思い継承

 澄んだ空、きれいな自然を感じてほしいとの思いから「大気の湯」と名付けられている。菅野専務が「大露天風呂はうちの名物。写真映えすること間違いなしです」と太鼓判を押すのもうなずける。肩までつかり、空を見上げ、しばらく吾妻山の自然を感じた。

 開湯約400年の高湯温泉は、安達屋旅館を営む菅野家の初代に当たる菅野三四郎がこの地で湯屋を開いたのが始まりとされる。菅野家は戦国大名伊達家に仕えたが、伊達政宗の父・輝宗が1585年に現在の二本松市で死亡したことを契機に帰農し、安達郡木幡村(二本松市)で暮らした。三四郎はそこで生まれた。

 時は流れ1607年。三四郎は父の遺言で仙台の伊達政宗の元へ向かう途中、現在の福島市内の寺に宿泊。すると夢枕に行者が現れて「西の山に温泉を探し、人のために尽くせ」とお告げがあった。何度も同じ夢を見た三四郎は、これを天命と受け止め、何日もかけて山を歩き、源泉を見つけたという。

 伝承を語りながら、菅野専務は「『人のため』という先祖の思いをしっかり受け継いでいきたい」と語る。ちなみに屋号は「安達郡出身」の意味が込められている。

 建物の外観は湯治場の温泉宿。けれども内装はラウンジに暖炉やおしゃれな家具が配置され、夕食会場は個室ごとに囲炉裏(いろり)があるなど落ち着いた空間が広がる。「お客さまに選ばれる旅館を目指してます」と菅野専務。時間に追われる日々の中、ゆったりとした至極のひとときが心に染みた。

 【メモ】安達屋旅館=福島市町庭坂字高湯21。日帰り入浴は毎週火曜と金曜以外、午前10時~午後1時に受け付けている。料金は中学生以上800円、小学生以下400円。

福島市・高湯温泉

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 【旬の野菜や果物集まる】福島市中心部から高湯温泉へと向かう「高湯街道」と「フルーツライン」の交差点に面し営業しているJAふくしま未来の直売所「ここら吾妻店」。旬の野菜や果物、オリジナル6次化商品が並んでいる。観光客や地元住民が多く立ち寄る人気スポット。店内には軽食コーナー「ここら亭」があり、そばやうどん、いなり寿司(ずし)などの食事も楽しめる。住所は福島市在庭坂字薬師田1の1。営業時間は午前9時~午後5時(季節により変動する)。

福島市・高湯温泉

〔写真〕新鮮な野菜や果物が並ぶ店内