【 いわき市・田村屋旅館 】 3組限定!至福の時間 家族で守る伝統

 
つるつるした感触の湯は、アルカリ性の泉質で傷の回復に良いとされ体の芯まで温まる

 フタバスズキリュウの骨や直径1メートルに及ぶ巨大なアンモナイトなど、数々の生物の化石が発掘されたことで知られるいわき市大久町。太古のロマン眠るこの町に、"掘り出し物"のような湯があると聞いた。同市平の市街地から北上し車で約40分、海岸沿いから少し入り山林に囲まれた田村屋旅館に到着した。

 江戸時代から続くという老舗は、明治時代に谷地鉱泉と名付けられた冷鉱泉を使っている。2011(平成23)年の東日本大震災後もかれることなく湧き続ける鉱泉には、奥州藤原氏の討伐で遠征した鎌倉武士も傷を癒やしたという言い伝えが残る。1970年代には北の海でのサケ・マス漁から帰った同市の豊間、薄磯地区の漁師が湯治に訪れるなど多くの人から愛されてきた。

 「田村屋」という屋号は明治時代、ばくちに明け暮れた2代目渡辺治朗兵衛に代わり、真面目に働いて旅館を守り通した妻おえいが当時の田村郡出身だったことから名付けられた。現在は7代目浩二さん(65)一家による家族経営で、毎年旧暦の9月10日には湯の神様へ感謝する神事も欠かさず、伝統の湯を守っている。「小さいころから入っているこの湯が一番落ち着く」と、8代目の敬介さん(31)。おえいのように実直そうな敬介さんの言葉に期待が高まる。

 ◆ニーズに応える

 水素イオン指数(pH)は10.1とアルカリ性の泉質で、神経痛や打ち身などに効能があるという。17~18度の源泉を42度程度に加温する。なるほど、浴室の戸を開けないうちから独特の香りがする。

 無色透明の湯に入ると、その特徴がすぐに体を包んだ。「体がぬるぬるする」。せっけん水に全身をくぐらせたような不思議な感覚に少し戸惑いながら、疲れが溶けていく心地よさにひたった。湯から上がると、余分な物がそぎ落とされたように肌がすべすべする。「美肌の湯」とも呼ばれるそうだが、看板に偽りなしだ。

 利用客に合わせたサービスも旅館の売り。湯温は客の好みで微調整する。料理は、都内の日本料理店で修業した敬介さんの母久恵さん(61)が予約時の要望に合わせて腕を振るう。

 渡辺さん一家4人とパート従業員2人で切り盛りしており、接客の質を重視するため宿泊客は1日3組までに絞っている。それでも「一日中ゆっくりできるからいいね」と県内外からリピーターが絶えない。敬介さんは「家族経営だからこそ一人一人のニーズに応えられる」と胸を張る。

 お風呂上がりの帰り道は心地よい。自然に囲まれた道を通っていると、ふと敬介さんの言葉を思い出した。「夏場はホタルも出るんですよ」。天の川とホタルの光を見比べつつ入る湯もまた格別だろう。来年の楽しみが一つできた。

 【メモ】谷地の湯 田村屋旅館=いわき市大久町大久字下谷地14。日帰り入浴は中学生以上550円、小学生330円、園児220円、未就園児無料。

いわき市・田村屋旅館

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 【化石採集も体験できる】田村屋旅館から約500メートル上った先にあるいわき市アンモナイトセンターでは、アンモナイトをはじめ約8900万年前の白亜紀ごろの生物の化石を展示している。建物の脇にある地層では実際に化石採集もでき、太古の世界に引かれた人々でにぎわっている。世界で約50個体しか発掘されていないアンモナイトの一種「ヤベイセラス」や海にすむ爬虫(はちゅう)類などの化石が並んでいるほか、地層から発掘された状態のアンモナイトが観察できる。午前9時~午後5時。毎週月曜日と1月1日休館。観覧料は一般260円(体験発掘込み730円)、高校・高専・大学生190円(同560円)、小中学生110円(同370円)。

いわき市・田村屋旅館

〔写真〕発掘された状態のアンモナイトが観察できる地層