【 三島町・宮下温泉 】 旅館と客を超えた『絆』 湯船から二つの川

 
大展望風呂からは、只見川や自然を180度見渡すことができ、心も体も癒やされる

 雪の降らない暖冬―とはいっても会津の冬は時折厳しく冷え込み、体を温めたくなる。只見川を眺めながらゆっくり湯につかることができる温泉があると聞いて、三島町へ足を運んだ。

 訪れたのは、同町の宮下温泉 栄光舘。1970(昭和45)年創業で、今年50周年を迎える老舗旅館だ。同町宮下地区の東端に位置し、只見川と、支流の大谷川が交わるかなり特徴的な場所にある。

 若女将(おかみ)の長峰京子さん(59)にあいさつし、早速温泉へ向かった。

 浴室に入るとすぐに目に飛び込んできたのはその素晴らしい眺望だ。二つの川の方角がガラス張りになっていて、180度の眺めを楽しむことができる。

 開放感のある浴室で湯船につかると、心身ともにリラックスしていく。泉質はナトリウム―塩化物・硫酸塩・炭酸水素塩泉で、湧出地での水素イオン指数(pH)は6.8。源泉掛け流しの湯は43度とやや熱めだが、不思議といつまでも入っていられる。「湯疲れしない温泉と言われています」と話していた長峰さんの言葉を思い出した。

 温泉で体を温めた後、長峰さんから旅館の歴史やこだわりを聞くことができた。旅館は元々、町商工会の有志が整備を企画し、長峰さんの父、小林秀逸さんと母洋子さんが経営を始めた。町民の保養の場として長年愛され、結婚式場として利用されたこともある。

 ◆県内外から助け

 川が近く、眺望がPRポイントだけに、水害にも見舞われた。2011(平成23)年7月の新潟・福島豪雨では建物などが浸水。泥に覆われ「復旧までどれだけかかるのか」(長峰さん)と思うほどの被害を受けた。

 しかし、町民のほか、これまで旅館に宿泊したことのある人が県内外から駆け付け、ボランティアで片付けに協力してくれた。そのおかげで、被災から約5カ月後には営業を再開できたという。

 困った時に駆け付けるほど宿泊者との距離が近いのは、スタッフの丁寧な仕事のたまものだろう。「小さい旅館ならではのおもてなしを心掛けている」と長峰さん。只見線の写真撮影を希望する人には列車の時間に合わせて車で送迎するなど、できる限り宿泊者の希望に添うよう対応している。

 心づくしは料理にも表れている。冬場の名物料理の一つ、会津地鶏の鍋は、地鶏のだしがきいたスープに季節の野菜がたっぷり入り、上品な味わい。スタッフのこだわりが分かる逸品だ。

 近年は只見線の人気から、日本人だけでなく台湾やタイなど海外からの観光客が宿泊する機会も増えているという。「宿泊を通じて、海外の人にも奥会津のおもてなしの素晴らしさを感じてほしい」。そう思わせる、心も温まる旅館だった。

 【メモ】宮下温泉 栄光舘=三島町宮下字塩水4113。日帰り入浴は午前8時~午後8時。料金600円。年中無休。

三島町・宮下温泉

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 【「列車撮影」絶好のポイント】三島町で最も人気の観光スポットとなっているのが、第1只見川橋梁(きょうりょう)ビューポイント。町の入り口にある道の駅「尾瀬街道みしま宿」の近くに展望台が整備され、鉄橋を進む只見線の列車を高台から撮影することができる。同道の駅では、会津地鶏を使った親子丼などご当地グルメを味わえるほか、町の特産品を購入できる。道の駅の営業時間は午前8時~午後6時(食堂は午前10時~午後4時)。年始を除き年中無休。

三島町・宮下温泉

〔写真〕展望台から望む第1只見川橋梁。観光スポットとして人気を集めている