【 猪苗代町・横向温泉 】 時間忘れいつまでも 心地いい『ぬるさ』

 
ぬるめのお湯はゆっくりとじわっと温まり、いつまでも入っていたくなる

 磐梯朝日国立公園の一角に位置する猪苗代町の横向(よこむき)温泉。3軒の宿が点在する閑静な温泉地だ。その中の「滝川屋」を訪れた。

 横向温泉の歴史は古く、1661(寛文元)年に発見されたという古文書が残っている。湯小屋を建てて開湯したのはその200年後で、旅籠(はたご)として本格的に宿が開かれたのは明治時代に入ってからだ。

 宿では、女将(おかみ)の阿部美恵さん(60)と看板犬のケンシロウ君が出迎えてくれた。暖冬とはいえ、宿の周囲は雪で真っ白だが、例年と比べると「全然少ないですよ」と美恵さん。風雪に耐えてきた建物は歴史を感じさせる。

 玄関をくぐり、中へ入ると巨大な岩石(安山岩)が目の前に。旅館そのものが固い岩盤の土地に立っているので、このような岩を生かした設計になっているそうだ。

 建物の中は一部改装しており、木のぬくもりを感じる明るい空間だ。明治か大正ごろのものだろうか。壁掛け式の古い電話機や金庫なども飾られている。

 気付くと1時間近く...

 浴室へは長い階段を下りていく。風呂は内湯で混浴と女湯の二つ。混浴内湯は檜(ひのき)風呂で、浴槽を三つに区切っている。水素イオン指数(pH)6.5の単純泉で、源泉温度は31.9度。オレンジ色の湯の花が舞っている。炭酸と鉄分を多く含んでいるそうだ。湯船の底から時折、ポコンと大きな気泡が湧き出る。「この浴室が湧出地なんです」と美恵さんは教えてくれた。東日本大震災以降、お湯の温度が下がったため、今は加温した源泉を注ぎ込んでいる。「予約を受ける際にぬるい温泉だとお伝えしています。シャワーもないです」と美恵さん。

 「(聞いてはいたが)冬に取材したのは間違っていたのではないか」と思いながら湯の中へ。最初に入ったのは手前の部分。確かにぬるい。源泉が注ぎ込まれる奥の方へ移ると、38度ぐらいだろうか、温かい。体に炭酸ガスの気泡が付く。炭酸ガスは皮膚から吸収され、毛細血管を拡張し血液循環をよくするらしい。なるほど、少しずつ体が温まってくる。なんだか心地いい。

 気付くと1時間近くたっていた。湯から上がると首と肩の疲れが取れて、すっきりした。常連客の中には2、3時間つかっていく人もいるという。「寝ちゃったりとかするお客さんもいますよ」と美恵さんは話す。

 昔は湯治で1週間や10日の滞在は当たり前の時代。約30部屋あるという客室の多さは当時の名残だが、現在は宿泊2組、自炊1組の最大3組までしか受け入れていない。美恵さんと、夫で7代目の真二さん(65)の2人で切り盛りしているため、それ以上宿泊客が増えると十分なおもてなしができない、というこだわりを持った宿なのだ。「いつか家族でのんびりしたいな」と思い宿を後にした。

 【メモ】横向温泉 滝川屋=猪苗代町若宮字下ノ湯甲2970。日帰り入浴は前日までに予約が必要。料金は中学生以上1000円、子ども(3歳以上)500円。

猪苗代町・横向温泉

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 【外は『サクサク』中は『ふわふわ』】横向温泉から南へ約8キロ先の中ノ沢温泉街にある「日乃出屋」は創業70年の菓子店だ。3代目の福地顕さんら家族で営んでいる。自慢の逸品は会津の郷土食にも挙げられる「天ぷらまんじゅう」(1個130円)。外は熱々でサクサク、中はふわふわ。北海道産の小豆を使った自家製の粒あんやこしあんは程よい甘さだ。このほか、地元産ブルーベリーとクリームチーズを使った冷凍大福「雫大福」(6個入り1080円)や、大福をパイ生地で包んだ土日祝日限定販売の「もちもちパイ」(1個200円)なども人気だ。営業時間は午前9時~午後5時。不定休。

猪苗代町・横向温泉

〔写真〕揚げたてが人気の天ぷらまんじゅう