【 川内村・かわうちの湯 】 魅力増し...よみがえる 非日常感を演出

 
洞窟のような小部屋になっている「力泉の湯」。湯船に使われた特殊な鉱石が、いっそう心身を癒やす

 「かわうちの山あいに日々を忘れる別天地あり」。観光パンフレットのキャッチコピーに心ひかれた。年度末の慌ただしさをしばし忘れようと、川内村を訪れた。

 清流が美しい木戸川沿いに目当ての「かわうちの湯」があった。山の斜面にたたずみ、昔話に登場する御殿のような外観が非日常感を演出している。

 玄関のロッカーに靴を預け浴場へ向かう。豊かな山に囲まれた村のケヤキやスギをふんだんに使ったという館内。廊下を踏みしめるたびに足の底からも木のぬくもりが伝わり、心がほっと和む。

 浴場は八角形の独特なデザイン。中央で半分に区切られ、日替わりで男湯と女湯に入れ替わる。浴場内を見渡すと、湯船の種類の多さに驚いた。まずは内湯へ。肌にまとわりつくような湯が心地よい。水素イオン指数(pH)は11.2とアルカリ性で、肌がつるつるとなることから「美人の湯」とも呼ばれている。なるほど、肌のすべすべ感が増したように思えた。

 内湯から続く「力泉(りきせん)の湯」に入る。洞窟のような小部屋にある湯船の底で、敷き詰められた蓄光タイルの柔らかな光が揺らめく。幻想的だ。天然のマイナスイオンを放出する特殊な鉱石を湯船などに使用し、自然治癒力の向上や自律神経の調整に効果があるという。

 屋外に出ると、一人用の釜湯が目を引いた。湯船にすっぽりと収まると、妙に落ち着く。頬をなでる2月の冷たい風が心地よく、いつまでも入っていられそうだ。1時間ほどかけて湯巡りを満喫した。

 ◆願い込めた場所

 かわうちの湯は、日帰り温泉施設として2000(平成12)年に開館。村が村民の憩いの場と観光の振興に結び付くことを願って整備した。「岩盤を2年かけて掘り進め、ようやく温泉に当たった」。温泉整備を担当した唯一の現役村職員の小松正方(せいほう)産業振興課長(54)は感慨深げに振り返った。

 村の狙い通り、かわうちの湯は年間10万人が訪れるようになったが、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で状況は一変した。全村避難を強いられ、施設は休業を余儀なくされたからだ。

 12年1月の「帰村宣言」に伴い、村は配管の破損など震災の爪痕が残る設備の改修を進めた。14年4月に釜湯や力泉の湯など新たな魅力が加わり本格的な再開にこぎ着けた。

 現在の利用者数は、震災前の半分の5万人。利用者の多くを占めていた富岡、大熊両町の住民の帰還の動きが鈍いことが影響しているようだ。

 村に活気を生む中心的な役割を担っていたかわうちの湯。浴場が村内外の住民でにぎわい、談笑が響く―。そんなかつての光景に出会えることを願い、これからも足しげく通ってみたい。

 【メモ】かわうちの湯=川内村上川内字小山平501。時間は午前10時~午後9時。火曜日定休。料金は中学生以上600円(土曜、日曜、祝日は700円)、小学生以下300円。

川内村・かわうちの湯

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 【標高の高さ生かした地場産品】かわうちの湯の駐車場内にある農産物直売所「あれ・これ市場」。2010(平成22)年にオープンし、村の農家が丹精して生産した新鮮な野菜が所狭しと並ぶ。今の時期は、フキノトウやタラノメなど春の訪れを告げる風味豊かな山菜も出回り始めた。ソバやエゴマ油など標高の高い村ならではの名物も販売している。村民手作りの小物なども人気。入浴後の住民や観光客らで店内はにぎわっている。営業時間は午前9時~午後6時。火曜日定休。

川内村・かわうちの湯

〔写真〕新鮮な野菜や山菜が並ぶ店内