原作・門田隆将さん「福島が日本を救った」 映画『Fukushima50』

 
門田隆将さん

 東京電力福島第1原発事故直後の現場対応に当たったプラントエンジニアたち作業員の姿を描き、俳優の佐藤浩市さんと渡辺謙さんが出演する映画「Fukushima 50(フクシマフィフティ)」が3月6日、全国公開される。原作の「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発」(角川文庫)を執筆した作家・ジャーナリストの門田隆将さん(61)は福島民友新聞社のインタビューに答え、「福島がいかに日本を救ったかを表した映画。県民は、放射能汚染に負けず復興を進めてきたことを誇るべきだ」と強調した。(聞き手 執行役員編集局長・小野広司)

 ―原作の執筆に当たり、事故当時の福島第1原発所長だった吉田昌郎さん(故人)をはじめ大勢の方に取材されました。取材に着手したきっかけや時期など、執筆に至る経緯は。

 「私が描かなければ、作業員が第1原発の中でどんな戦いをしたか知られないままになると思っていました。日本のマスコミは主義主張やイデオロギーに固執する。原発事故を罵倒はしても、中で何が起きていたかは絶対に明らかにされない、と。原発の中で日本人がどう戦ったか、後世に残すのが同時代のジャーナリストである私の役目だと思っていました。事故が起きた2011(平成23)年3月中に動きだしましたが、ガードが固く苦戦しました。やっと吉田さんを直接取材できたのは1年4カ月後の翌12年7月。『俺は何も困ることはない。真実は何でも話す』と言ってくれました」

 ―劇中では渡辺謙さんが吉田所長を演じました。直接会った吉田所長はどんな人でしたか。

 「ユーモアに富んで、ざっくばらん、そして信念の人だった。上意下達の組織にいながら、東電本店に対して言うべきことは言う。私が取材した吉田さんの部下たちは口をそろえて『自分たちのために身体を張って戦ってくれる所長』と言っていました。信頼感がものすごかった。なぜ作業員が家族への思いを断ち切り、原子炉建屋の中に突入できたのか。それは、彼らが『吉田さんとなら一緒に死ねる』と思っていたから。社会的使命もあったし、有事には命を張るように教育を受けてはいました。ただ、その時に吉田さんのような上司から命令を受けるかどうかで、決断に大きな違いが出ることを感じました」

 ―作業員は決死の思いでベントに向かいました。よほどの覚悟がなければ原子炉建屋への突入などできないと思いますが。

 「取材した作業員の一人が『(ベントに失敗すれば)家族も一緒に死ぬんですよ』と言ったのが非常に印象に残っています。彼らは、自分がやらなければ日本が死ぬということを確信していた。突入は、家族を助けるためでもあった。彼らは自分、家族、そして国の"死の淵"に立っていたんです。ベントで1号機の二つの弁を開ける時、一つは作業員が手動で、もう一つは外から何度も空気を送り込んで開けた。もしベントに成功していなければ、東日本は壊滅しています。失敗しても決してあきらめず、結果的に二つとも弁を開けた。日本が助かったのは奇跡だと思います」

 ―撮影に立ち会ったそうですね。印象的だったことは。

 「佐藤浩市さん、渡辺謙さんら俳優陣が熱心に質問をしてきたことです。『この時はまだ爆発が起きていないから、このシーンの心情はこうじゃないでしょうか』など、その場面での心情を細かく質問するわけです。彼らは、この場面は眉を上げるか下げるか、頬の筋肉を硬くするか軟らかくするかとか、身体のパーツごとに表現していく。作家は活字がメディアになるが、彼らは肉体がメディアなんです。これまでも私の著作をテレビドラマ化する際、撮影現場に関わってきたが、肉体をメディアにする人たちの情熱、丁寧さなど、すごさを改めて感じました」

 ―劇中、福島民友新聞社の記者が本県の未来を案じる描写がある。事故から9年の本県は、作業員たちが命を懸けて守ろうとした姿に近づいているのか。門田さんから見て、いかがですか。

 「福島が"日本を救った"んですよ。私は、全国の講演でも言っています。『福島がかわいそうな被災地』なんて、冗談じゃない。この映画で描かれているのは福島の人たちによる原子力事故との激烈な戦いの真実なんです。福島の人でなければ"できなかった"かもしれない。日本は福島の人たちに救われたんですよ、と。福島の人たちにも、日本を救ったのは俺たちだという気持ちで胸を張ってほしいですね」

 ―福島の希望は、県民自身が強い意志で体現していく必要がある。

 「県民自身が日本を救ったという強い意志と、『放射能汚染にも負けずにここまで復興したんだぞ』という誇りを持つべきだと思います。2020年東京五輪・パラリンピックの聖火はJヴィレッジから全国に出発する。それは、『俺たち福島は負けなかったぞ』という意味です。私はそう思っています。この映画は福島へのメッセージだし、日本国民が、福島から受け取らなければならないメッセージを発した映画なんです」

 かどた・りゅうしょう 1958年、高知県生まれ。中央大法学部卒。戦争、事件、司法、スポーツなど幅広いジャンルでノンフィクションを執筆。山本七平賞受賞の「この命、義に捧ぐ 台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡」(角川文庫)をはじめ、著書に「甲子園への遺言 伝説の打撃コーチ高畠導宏の生涯」(講談社文庫)、「記者たちは海に向かった 津波と放射能と福島民友新聞」(KADOKAWA)など。

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